妊娠・出産部門
夫婦で挑む不妊治療
今年は特に、独身女性の卵子凍結容認への動きなど、女性の「卵子」に対する動きが多く見られた。さらに、不妊治療についても、これまでは女性だけが一人悩みがちであったが、男性も自身の不妊に対する取り組みを積極的に行うように変化しつつある。
卵子を凍結保存する独身女性の動きが拡大
晩婚・晩産化が進む日本では、不妊の問題も深刻。6組に1組の夫婦が、不妊の検査や治療を受けた経験を持つという。避妊をやめればすぐ妊娠できると思ったら大間違い。年齢とともに卵子も精子も老化するのだが、それが不妊の原因になることは従来あまり知られておらず、不妊治療に来て初めて知る女性も多かった。
しかし今年は、次のような動きがあり、啓蒙という点では一歩前進したようだ。
「ようやく今年度から高校の保健体育の教科書に不妊が盛り込まれ、卵子の老化について教えるようになりました。産み時の年齢がわかるような書き方をしています」(「母乳育児」ガイド 浅井貴子氏)
一方、「卵子の老化」が不妊の原因になることを知る女性たちの間では、自分の卵子を若いうちに採取し、凍結保存する動きが拡大。
従来、受精卵の凍結については、不妊治療の一環として広く行われてきたが、未受精の卵子の場合は凍結保存が技術的に難しく、日本産科婦人科学会では、がんの放射線治療など卵子に悪影響を与える治療を受ける女性にのみ認めてきた。しかし、健康な独身女性のニーズに応え、これを独自に実施する医療機関も出てきているのだ。
そこで日本生殖医学会は9月、健康な独身女性にも卵子凍結を認めることを盛り込んだガイドラインを公表。40 歳以上での卵子採取や、凍結保存した卵子の45歳以上での使用は推奨しないことなどを指針に盛り込み、無秩序に卵子凍結が行われることに対して警鐘を鳴らした。
夫が治療を決断し、夫婦一緒に「ペア妊活」
以上のように、今年は「卵子の老化」にスポットライトが当たったが、夫が不妊治療に非協力的であることも、その原因の一つとして挙げられる。
WHO(世界保健機構)の不妊症原因調査では、原因が男性のみにあるケースが24%、女性のみのケースが41%、男女ともにあるケースが24%、原因不明が11%と報告されている。つまり、約半数のケースに男性の不妊が関わっていることが示されているわけだ。にもかわらず、夫が不妊の検査に行きたがらず、ようやく治療を始めた頃には、卵子が老化しているというケースも多いという。
このように、これまで不妊については男性の関心が薄く、女性が一人で悩みがちだった。
ところが、今年は様子が違ってきている。主婦の友社が発行している『赤ちゃんが欲しい』の2013春号には、「メンズのための妊活バイブル」が付録に。「妊娠・出産」ガイドの河合蘭氏も、NPO法人ファザーリングジャパンと「夫婦で妊活を考えよう」と題したイベントを企画した。自身の著書『卵子老化の事実』も晩婚の男性によく読まれているという。
「高齢出産する夫婦は一緒に考え、共に行動する傾向があります。不妊治療も女性だけがんばって男性は検査も受けないことが多かったのですが、最近は男性不妊の報道も多く変化が表れてきました」(河合氏)
これまで、男性の不妊治療には次のような壁もあった。男性の不妊治療の場合には男性不妊専門医のいる泌尿器科に行く必要があるが、泌尿器科の多くは大学病院にあるため、土日は休みなので仕事を休まなくては行くことができないのだ。
「しかし、男性も取り組まなくてはいけないという空気が生まれ、ニーズが増えたことで男性不妊の専門医が増えそうな流れがあります」(河合氏)
こうした今年からの流れを汲み、これからの不妊治療は夫婦で挑む「ペア妊活」が主流になりそうだ。