住まい部門
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1位
住宅診断が法制化
中古にも安心を求める決断
中古住宅診断の結果を買主に説明することを義務付け
雨漏りやひび割れなど、中古住宅の劣化状況を建築士などが検査し、不具合の有無や補修すべき個所などを第三者の立場から判断する「住宅診断(インスペクション)」。今年5月の国会で、宅地建物取引業法の一部を改正する案が可決され、このインスペクションの結果を中古住宅の売買契約前に、重要事項として買い手に説明することが義務づけられることになった。施行は2年以内だが、告知義務が現実になることで、中古住宅を購入する際にインスペクションを利用することが当然の時代になる。
2025年には中古・リフォーム住宅流通市場が20兆円規模に拡大
公益財団法人東日本不動産流通機構が今年1月に公表した「首都圏不動産流通市場の動向(2015年)」によれば、中古物件の成約件数は、マンションが3万4,776件(前年比2.9%増)、戸建住宅1万2,153件(前年比8.4%増)と、ともに前年より増加した。国土交通省は、この法改正により消費者が安心して中古住宅の取引ができるようにし、中古住宅市場のさらなる拡大をはかりたい考えだ。同省が策定した「新住生活基本計画」には政策目標が設定されており、2025年には中古住宅流通市場の規模を13年の4兆円から8兆円へ、リフォーム市場の規模を13年の7兆円から12兆円へ、合わせて20兆円の市場規模へと拡大する目標が掲げられている。
インスペクションサービス大手のさくら事務所によると、同社の一戸建てホームインスペクションの受注件数は、2014年度比約120%の勢いで伸びているという。ニーズが拡大している住宅診断市場に新規参入する事業者も、ここへ来て大幅に増加している。国土交通省の資料では、インスペクションの利用者は現在、中古住宅購入者の1割未満であり、その理由として事前にインスペクションの存在を知らなかったことが挙げられているが、参入業者の増加は消費者のリテラシー向上にも貢献するだろう。
平野 雅之
不動産売買 ガイド
これまで新築重視だった住宅市場も、ここ数年で既存住宅ストックの活用や流通に重点を移しつつあり、法律や制度も整備が進められている段階です。その多くでインスペクションが要件となっており、今後さらに活用の機会が増えていくでしょう。しかし、利用目的によって検査員の規定が異なることや検査の公平中立性をどう保つかなど、消費者にとって分かりづらい面も少なくありません。認知度アップと同時に、インスペクション制度のさらなる整備が望まれます。
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2位
人口減少・少子高齢化に向き合うために
価値ある街へ縮小する決断
人口減と高齢化のダブルパンチで、地方自治体は税収が減るにもかかわらず、福祉予算は増大する。その対策として国が推進しているのが、住まいや公共施設、医療施設、商業施設などを一定の範囲内に収めて都市運営の効率化を目指す「コンパクトシティ」政策だ。この取り組みを行う市町村は「立地適正化計画」を作成するが、国土交通省が調べたところ、今年7月31日時点で289都市が具体的な取り組みを行っていることがわかった。うち、箕面市(大阪府)、熊本市、花巻市(岩手県)および札幌市(北海道)の4都市は、計画を作成・公表済み。それ以外の都市のうち115都市は今年度内に作成・公表する予定だ。
内閣府が2014年に行った「人口、経済社会等の日本の将来像に関する世論調査」では、居住地を中心部に集約するという考え方に「賛成」とする人の割合は約3割と、まだ高くない。しかし、居住地の中心部への集約が進められた結果、自宅周辺に病院など必要な施設や機能が不足した場合となると、約5割の人が中心部への移住意欲を示した。さらに2015年の「住生活に関する世論調査」では、高齢期における理想の居住地として「医療・介護・福祉施設へのアクセスの良い場所」を挙げた人の割合が約8割と最も高くなっている。こうしたことから、今後は医療施設などの移転に伴って、中心部への移住を決断する人が増えることが予想できる。
立地適正化計画は人に例えるなら、膨張した肥満体をスリムで無駄のない筋肉質の身体にダイエットする試みです。人口減、税収低下に直面する多くの自治体が検討せざるを得ないでしょう。当面、人口増加である東京も例外ではありません。計画が立案され実行に向かう移行期には、痛みを伴う問題が生じます。計画外が明らかになった地域の資産価値の低下や、計画を実行性の高いものにするための用途地域制の改変など。いずれも、既得権益・資産価値といったお金がからむ問題なので、一筋縄ではいきません。住民が計画に関与し、新しい街の将来像を語り合い、ひとりひとりがそこで暮らすことに希望を持つ。それが問題解決の一歩となるかもしれません。
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3位
あなたと一緒に住みたいにゃ~
ネコと住む決断
少子高齢化と核家族化の進展により、今やペットは子どもの数より多く、飼い主にとっては“家族”“パートナー”といった存在になっている。矢野経済研究所の調べによれば、2015年度のペット関連ビジネスの市場規模は前年度比101.3%の1兆4,689億円(小売金額ベース)の見込みだ(※)。ペットと一緒に暮らせる住宅も増加中。入居者全員がペットと暮らすことを前提にした賃貸住宅商品「プラスわんプラスにゃん」を展開する旭化成によれば、2015年度はその管理戸数が前年度比40%増で、今年度も同程度のペースで増加しているという。
そのなかで、猫の人気が犬に並ぼうとしている。ペットフード協会が今年1月に発表した「2015年 全国犬猫飼育実態調査」の結果を見ると、推計飼育数は犬が991万7,000匹、猫が987万4,000匹で、猫の飼育数が犬に迫る。高齢者や一人暮らしの人が増えたことで、犬に比べて散歩の手間がかからず平均飼育費用も安い猫が選ばれるようになっているのだ。
大京リフォーム・デザインも今年、ペットリフォーム事業に本格参入。日本最大級のペットショップを運営するAHBと提携し、猫との暮らしをデザインしたショールームを順次開設する予定だ。一人暮らしでも猫を飼ってみたいというニーズに応えているのが猫のいるマンションやシェアハウスだ。中には、保護猫シェルターとしても機能している物件もあり、気に入った猫がいた場合には退去時に連れていくこともできる。
※出典:矢野経済研究所「ペットビジネスに関する調査(2015年)」
今年は猫人気による経済効果がめざましく、ネコノミクスという言葉が生まれ、住宅にも広がっています。猫は犬に比べて飼いやすいイメージがありますが、住宅の場合は、爪とぎなど犬より広範囲にわたっての対策が必要になります。今後、更にペット共生ニーズは高まり、ペット対応製品のバリエーションが増えてくることと思います。
飼い猫の平均寿命は15歳以上、長く幸せに暮らせるよう家づくりの工夫が大切です。
~未来予測~
みんなが民泊
Airbnbゲストの宿泊イメージ画 (提供:Airbnb)
住宅の空き部屋などに旅行者を有料で泊める民泊。政府は東京オリンピックが開催される2020年までに訪日観光客を年間4,000万人に増やす目標を掲げており、その受け入れ施設としても期待されている。
そんな民泊の規制を緩和し、ほぼ全面的に解禁する新法の成立が急がれているが、今秋の臨時国会への前倒し提出が見送られ、当初の予定通り、来年の通常国会への提出をめざすことになった。運用上のルール案にある民泊の年間営業日数の上限について、民泊普及を警戒する旅館業界と、空き物件活用に前向きな不動産業界の利害が対立し、その調整でもめているためだ。
この民泊新法の成立を見据え、企業も続々と民泊分野に事業参入している。今年5月に設立した新日本地所は、8月末現在300戸超保有している民泊運営用の転貸可能物件を年末までに1,000戸を目標に増やす。また、女性専用の寄宿舎シェアハウスを運営するスマートライフは10月より、現行の旅館業法も遵守した民泊専用物件を都内中心に新築し、投資物件として販売する。
代表的なものとして挙げられるのが、宿泊可能な空きスペースを手軽に掲載・予約できるマーケットプレイス「Airbnb」だが、本格的に民泊が解禁されれば、こういった企業の広告活動なども活発になるだろう。
審査員ガイド
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平野 雅之
不動産売買 ガイド
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大久保 恭子
これからの家族と住まい ガイド
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Yuu
リフォーム ガイド
平野 雅之
不動産売買 ガイド
民泊の需要が高まる一方で、マンションの一室などを活用した民泊をどうするのかなどの課題もあります。今後は民泊目的の不動産投資や空き家活用も増えるでしょうが、新法が成立して民泊が解禁されても、営業が可能なエリアは一定の地域に限られることに注意が必要です。一定のルールをしっかりと守ったうえで、旅行者の利便性を考えていかなければなりません。