マネー部門
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1位
功罪入り混じるマイナス金利
住宅ローンを借り換える決断
住宅ローン金利が過去最低水準に 借り換えの申し込みが急増
今年1月29日に日本銀行が初めて導入したマイナス金利。家計に与える影響としては、住宅ローン金利の低下が最も大きい。先陣を切った三井住友銀行の例では、10年固定型の最優遇金利を2月16日より0.15%引き下げ、過去最低水準の年0.9%にした。
こうした動きを受け、銀行への住宅ローン借り換え申込件数は急増。朝日新聞の集計によれば、大手銀行6行(三菱東京UFJ、三井住友、みずほ、りそな、三井住友信託、新生)への3月の借り換えの申込件数は合計約2万3,600件で、前年同月比3.6倍に膨らんだという。
また、日経リサーチがこの夏、首都圏に住む20~74歳の男女を対象に実施した「金融総合定点調査『金融RADAR』特別調査2016」(有効回答数3,947人)によると、このマイナス金利導入を受けて、金融商品や今後の貯蓄・投資について「相談に行った」と答えた人は13.7%だった。相談内容では「住宅ローン」が41.2%と最も多く、その内訳は、「新規・追加で購入・保有をした」が24.2%、「保有していたものを解約・見直しした」が23.8%。以上の結果からも、借り換えに動いた人は新規で借りた人と同じくらい多かったものと見られる。
利回りで人気を集めた不動産投資 募集を一時停止するJ-REITファンドも
マイナス金利は個人の投資行動にも変化をもたらした。TOPIX(東証株価指数)と東証REIT指数について、マイナス金利発表前日から4月末まで3か月間の騰落率を比べると、前者が4%下落したのに対し、後者は14%上昇している。これは、マイナス金利導入を受けて10年国債の利回りがマイナスになっているなか、投資資金が3%台の分配金利回りを期待した投資マネーがJ-REITに流入したためであると考えられている。こうした影響もあり、「東京海上J-REIT投信」のように、J-REITファンドが運用資産規模を適正範囲に維持するため、購入申し込みの受け付けを一時停止する動きも見られた。
以上のように、恩恵も大きかったマイナス金利だが、金融機関の収益悪化や生保・年金の運用難といった課題もあり、日銀は9月21日の金融政策決定会合でマイナス金利を深堀りせず、マイナス0.1%のまま据え置くことを決定。初の導入となったマイナス金利の影響は、功罪入り混じったものになっている。
住宅ローンを扱う銀行は表面上活況を呈したものの、繁忙を極めた割に新規の融資は実行されておらず、残高は微増に留まっています。マイナス金利政策は劇薬となり、そこまで日本経済は悪いのかと疑心暗鬼を生むことになりました。預金金利もマイナスになるのでは?と不安が生まれ、金庫が売れに売れたという特需も。自然災害も重なり消費者は財布の紐を締めがちなところに、トランプ大統領という新たなリスク要因も発生したことで、財布の紐を緩める機会は今後さらに遠くなりそうです。
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2位
消費から年金、相続まで
節約・節税意識を高める決断
今年は生活者の節約・節税意識の高まりを示す事象が相次いだ。相続税対策としてアパートやマンションを建てる人もいるが、今年はそうしたニーズが高まり、賃貸物件の建設が増加。国土交通省の調査によると、今年8月の新築着工数は、「持家」が2万6,361戸で前年同月比4.3%増(7カ月連続の増加)。これに対し、「貸家」は3万6,784戸で前年同月期比9.9%増(10カ月連続の増加)と、「貸家」が「持家」を上回る伸びを示した。
投資の分野で注目を集めているのが、運用成績によって年金額が変わる個人型確定拠出年金(DC)だ。運用益だけでなく、掛け金も課税対象の所得から差し引かれる点で高い節税効果が期待できる。その加入対象が来年から、主婦や公務員、企業年金のある会社員にも広がるのに伴い、野村総合研究所は63月、1万1,732人にインターネットによるアンケートを実施した。その結果、この法改正により新たに941万人が加入を希望すると推計している。
また、株式市場では今年、日経平均株価が低迷するなかでも、牛丼のゼンショーHD、100円ショップのキャンドゥやセリア、回転ずし店のくらコーポレーションといったデフレ関連銘柄が買われる局面があった。生活者が節約志向になり、デフレ圧力が高まると投資家は見ているのだ。
アベノミクスによって株価や不動産価格の上昇が続いたせいか、昨年末以降高値警戒感が出ています。そのせいか不確実な利益より、確実に取れる節税に注目した動きが目立ちました。一方で実質所得の減少が続いており、家計が楽になったという話はあまり聞かれません。お金を使わないのではなく、使うお金がない。こういう状況下でインフレが続くと、多くの家庭がさらに節約志向をより強めていくと思われます。
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3位
ITで家計管理や買い物をもっと便利に
フィンテックでお金の流れを変える決断
ITを使った新たな金融サービスの利用者が急増している。その名は、「Fintech(フィンテック)」――金融を意味する「Finance(ファイナンス)」と、技術を意味する「Technology(テクノロジー)」を組み合わせた造語だ。その代表例が、スマートフォンでのカード決済や、自動で家計簿が作れるクラウド家計簿、ネットを通じ個人が小口資金でプロジェクトを支援するクラウドファンディングなどだ。
個人向け自動家計簿・資産管理サービスを提供するマネーフォワードによれば、2012年に開始した同サービスの利用者数は、今年9月に400万人を突破。また、データ可視化サイトのvisualizing.infoによると、国内主要クラウドファンディングの累計支援額は今年7月時点で700億円を突破したという。
ビットコインなどの仮想通貨に関しては、「フィンテック」の発展で新しい利用手段が注目されているが、現在は“モノ”とみなされているため、その取引を規制する法律はない。しかし、政府は仮想通貨は貨幣の機能を持つとして、公的決済手段の一つに位置付け、その取引の透明性を向上させるための法規制案を3月に閣議決定した。利用者が安心して取引できるルールが整えば、「フィンテック」利用の動きはより加速するとみられる。
現金を持たない生活が普通になるであろう近い将来。複数のカードを1枚にまとめられる電子カードの普及は、切望している方も多いはず。注目すべきは中小企業へのインパクトです。クラウド会計で経理コストを削減し、スマホに端末を接続するだけのカード決済システムで自社商品やサービスを売るなど、ビジネスチャンスが広がるのではないでしょうか。
~未来予測~
控除パニック
女性が就労を少なく調整してしまう「壁」だとされる「配偶者控除」。その廃止が、また見送られることになった。それどころか、政府は逆に2017年度税制改正で、配偶者控除を適用する上限を年収103万円から150万円程度に拡大する方向で議論しているという。上限の引き上げによって、年収103万円を超えて働く女性が増えることを期待しているのかも知れないが、企業が個別に設けている配偶者手当制度や社会保険の適用枠など、女性にとっての「就労の壁」はまだ残る。そういうなか、中間層の世帯年収の夫婦は、妻の働き方を検討せざるを得なくなるだろう。
一方、年収が一定額以上ある人は、「給与所得控除」の上限額が段階的に引き下げられることによって、増税が必至に。
2015年分までは、給与収入が1,500万円を超えると給与所得控除に245万円の上限額が適用されていた。それが2016年分からは、1,200万円を超えると230万円になり、さらに2017年分からは、1,000万円を超えると220万円に引き下げられるのだ。該当する人々は家計に大きな影響が出るだろう。
深野 康彦
投資信託 ガイド
税制全体は中立という命題により、配偶者控除の見直しは迷走を極める結果となるでしょう。給与所得控除に上限が設けられていることから、青天井の退職所得控除にメスが入る可能性も否定できません。現役世代の負担を軽くするため、公的年金等控除を減額して高齢者にも応分の負担を求める案も俎上に載りますが、全ては衆議院解散の御旗次第です。