妊娠・出産部門
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「保育園落ちたの私だ!」
ワーママが声をあげる決断
改善しない待機児童問題に集まったネット署名約2万8,000件
国立社会保障・人口問題研究所が実施している出生動向基本調査。その1977年から2014年まで約40年間の推移を見ると、子どもを持つ女性の就業率は上昇傾向にある。結婚退職が減り、第1子出産後も働き続ける割合は4割前後で推移してきたが、2010年代では53.1%と過半数を占め、第2子、第3子出産前後の就業継続率は8割前後で推移している。その背景にあるのは、育児休業制度を利用する人の増加だ。
しかし、保育園に入れない待機児童問題が改善されず、今年は声を上げるワーキングママが続出。「保育園落ちた日本死ね!!!」というはてな匿名ダイアリーに投稿された記事への共感から、同じ悩みを持つ女性たちが国会前で抗議行動を起こした。さらに、署名サイトの「チェンジ・オルグ」で「#保育園落ちたの私と私の仲間だ」と題した保育環境の充実を訴えるネット署名運動が始まり、集まった約2万8,000件の署名は厚生労働省にも提出され、話題となった。
「妊娠したから降格」は違法 企業に求められる環境の整備
妊娠や出産を理由に職場で不利益な扱いをされる「マタニティーハラスメント」。全国の労働局に寄せられた今年度のマタハラ相談件数は、4,762件と過去最多を2年連続で更新した。妊娠が理由の降格を違法とした昨年の最高裁判決が影響したと見られる。あわせて、厚生労働省が来年1月から、マタハラが懲戒処分の事由になることを就業規則などに明記するよう、企業に求める方針を決定。妊娠しても働きやすい環境の整備を進める。
そのほかにも、東京都の小池百合子知事は今年9月、「保育所などの整備促進」「人材の確保・定着の支援」「利用者支援の充実」を柱とした待機児童問題解消に向けた緊急対策案を示した。保育施設として活用可能な都有地の提供、保育士らの社宅の整備案、認可外保育施設への巡回指導チーム編成などが検討されている。
日本で最も厳しい保活を強いられる首都圏の親にとって、「日本死ね」は若い子育て層を振り回す政策を弾劾する言葉だったのでは。「女性も輝け」と産後の職場復帰を奨める一方で、子育て環境の整備に遅れるという矛盾。本当に女性の労働参加率を上げたいのなら、待機児童解消と保育士の待遇改善は当然です。そこにどれだけ保育の質、その先には義務教育の質を上積みできるかで、子供を預けて働く親の不安は自信に変わると思います。
~未来予測~
ワーク・バース・バランス
日本の女性の就業率は上昇してきているが、国立社会保障・人口問題研究所の第15回出生動向基本調査によれば、働く既婚女性の46.9%が依然として第1子の妊娠・出産を機に退職している。しかし、今年4月に施行された「女性活躍推進法」を受け、今後は企業が出産退職者を減らすために制度を改善する動きも活発化するだろう。たとえば、より長い期間の育児休暇提供や、リモートワークでの産後復帰、オフィス内での保育施設開設などが代表的な例だ。既に取り組みを始めている企業の例を挙げると、NTTグループ、資生堂、リクルートやローソンなどが本社内に社員のための保育施設を開設している。
また、厚生労働省は、働きながら不妊治療を受ける従業員への理解を企業に求め、不妊治療目的で利用できるフレックスタイム制の導入や年次有給休暇を時間単位で取得できるような制度変更などを促すパンフレットを配布している。そんななか、パナソニック、リコー、日産自動車などに続き、トヨタ自動車も来年1月をめどに不妊治療のための休暇制度を導入すると発表。スマートフォンを使ったフリマアプリを運営するメルカリも今年、不妊治療や病児保育の費用を支援する制度を導入した。
産み育て働き続けやすい企業を増やすことを目指して設立されたベビー&バースフレンドリー財団によると、同財団が展開している企業向けの研修は開催数を順調に伸ばしており、来年3月には「バースフレンドリー企業アワード」を開催する予定であるという。少子化が危惧されるようになって久しい日本だが、企業の意識改革で「産むこと」に対して優しい社会が作られていきそうだ。
大葉 ナナコ
妊娠・出産 ガイド
女性管理職比率のアップだけでなく、採用力を高めるためにも妊娠・出産に関する制度の整備を進めている企業は多くあります。しかし、女性が妊活などを理由に退職する際には、その理由を明らかにしないケースが多数。そのため、根本的な問題の解決には至らず、妊娠を理由にした退職率はいまだ高い水準にあります。「出産」という女性のライフステージにおいてどのような問題が存在するのかを知ることが、バースフレンドリーな社会を作る重要な一歩です。