正しい答え【All Aboutコラムコンテスト最優秀賞受賞作品】
総合情報サイト「All About」が誇る約900人の専門家(ガイド)によるコラムコンテスト。2019年上半期の注目キーワードと「私の見方」をテーマにコラムを募集。今回は、多数の応募作品の中から選ばれた最優秀受賞作品をご紹介します。
ここ数年……正確にそれが「いつ」ごろからかは定かではないのだけれど、「家事・掃除・子育て」ガイドとして、おもに「家事」における「唯一無二の正答」のようなものを求められることが増えた。例えれば「ニットセーターの正しい洗濯頻度と、絶対に失敗しない洗い方」といった感じのものだ。
実際そういうテーマで話したり、書いたりすると数字に反映されてくるらしいのだが、そもそもそういった「正答モノ」を提案してくる各媒体の編集諸氏自身が、あたかも捨てられた仔猫のような目で「正しいお答え」を知りたがっている様子なのである。それが、どうも不思議だった。
各々に、なにか切実さが垣間見えている。どうしてそこまで「正答」を求めているのか、ある時期まで、本当に解せなかった。
確かに、特定の育ち方をしてしまうと私たちは概ね「家事」の技術も知恵も身につけないまま、答えを知らないままにおとなになれてしまう。それはつまるところ、「家事育児に専従する人」を擁した家庭での育ちだ。ひらたくいえば「専業主婦の母」のもとで、勉強やスポーツだけに邁進してきたような場合である。
そうやって育って、育ちきって、すっかりおとなになっても、そんな母のそばで暮らせていれば、なおのことだ。
それでもいつか親元を離れることになり、そのときになって、おそらく愕然とすることになる。およそ、自分がなんの生活力も持ち合わせていないことに気づいてしまう。
しかし今日日は便利なので、たいていのことはインターネットに情報が載っている。困ったらスマホでチョイチョイと都度、そんな瑣末な情報など拾えば済む。
そう思っているから、だから本当を言えば、「専業主婦の母」は、「いれば便利」だけど、そこまで「いてくれてありがたい」とも思っていなかったりするのだ。
いわゆる「家事」の技術とやらにも、いささかの疑念がある。たかが「家事」だ、誰でもできることだ。たいして難しいことをしているわけじゃないと、侮ってしまう。
しかし、けっこうな頻度で、やってみると失敗するのが「家事」というものである。
まだ買って間もないニットセーターを、洗って縮めてしまったある女性は、「これがファストファッションだから悪かったのだ」と考えていた。
けど、本当は「洗濯絵表示」を読み解けずに、使ってはいけない水で、使ってはいけない弱アルカリ性洗剤で、しかも洗濯機で洗ってしまったせいだった。しかしそうということはなかなか認めたがらなかった。
いかなファストファッションでも1回324円、「ドライクリーニング」代をはたきさえすれば、あと数回は着られたに違いないのに、もったいない。
はたしてどんな服でも、「1回着たら洗わないと気持ちが悪い」と思っているようなメンタリティは世の中に厳然としてあり、その流れで無手勝流な洗濯ミスもあちらこちらで生じている。残念だが、そこにはお金のかかるドライクリーニングまでの「つなぎ」としてある、「拭き洗い」という名の「家事の知恵」は存在していない。
一方テレビCMなどの影響で、汚れたような気がする物にはなんでもかんでも「除菌消臭スプレー」をかければ万事解決するという信仰もあり、かくしていろいろに生じる各所の家事関係トラブル事例を聞くだに、「これは正答を求めたくなる気持ちもわからなくもないな」と、思わざるを得なかったりするわけだ。
実際そういうテーマで話したり、書いたりすると数字に反映されてくるらしいのだが、そもそもそういった「正答モノ」を提案してくる各媒体の編集諸氏自身が、あたかも捨てられた仔猫のような目で「正しいお答え」を知りたがっている様子なのである。それが、どうも不思議だった。
各々に、なにか切実さが垣間見えている。どうしてそこまで「正答」を求めているのか、ある時期まで、本当に解せなかった。
確かに、特定の育ち方をしてしまうと私たちは概ね「家事」の技術も知恵も身につけないまま、答えを知らないままにおとなになれてしまう。それはつまるところ、「家事育児に専従する人」を擁した家庭での育ちだ。ひらたくいえば「専業主婦の母」のもとで、勉強やスポーツだけに邁進してきたような場合である。
そうやって育って、育ちきって、すっかりおとなになっても、そんな母のそばで暮らせていれば、なおのことだ。
それでもいつか親元を離れることになり、そのときになって、おそらく愕然とすることになる。およそ、自分がなんの生活力も持ち合わせていないことに気づいてしまう。
しかし今日日は便利なので、たいていのことはインターネットに情報が載っている。困ったらスマホでチョイチョイと都度、そんな瑣末な情報など拾えば済む。
そう思っているから、だから本当を言えば、「専業主婦の母」は、「いれば便利」だけど、そこまで「いてくれてありがたい」とも思っていなかったりするのだ。
いわゆる「家事」の技術とやらにも、いささかの疑念がある。たかが「家事」だ、誰でもできることだ。たいして難しいことをしているわけじゃないと、侮ってしまう。
しかし、けっこうな頻度で、やってみると失敗するのが「家事」というものである。
まだ買って間もないニットセーターを、洗って縮めてしまったある女性は、「これがファストファッションだから悪かったのだ」と考えていた。
けど、本当は「洗濯絵表示」を読み解けずに、使ってはいけない水で、使ってはいけない弱アルカリ性洗剤で、しかも洗濯機で洗ってしまったせいだった。しかしそうということはなかなか認めたがらなかった。
いかなファストファッションでも1回324円、「ドライクリーニング」代をはたきさえすれば、あと数回は着られたに違いないのに、もったいない。
はたしてどんな服でも、「1回着たら洗わないと気持ちが悪い」と思っているようなメンタリティは世の中に厳然としてあり、その流れで無手勝流な洗濯ミスもあちらこちらで生じている。残念だが、そこにはお金のかかるドライクリーニングまでの「つなぎ」としてある、「拭き洗い」という名の「家事の知恵」は存在していない。
一方テレビCMなどの影響で、汚れたような気がする物にはなんでもかんでも「除菌消臭スプレー」をかければ万事解決するという信仰もあり、かくしていろいろに生じる各所の家事関係トラブル事例を聞くだに、「これは正答を求めたくなる気持ちもわからなくもないな」と、思わざるを得なかったりするわけだ。
そんななか、先日洋服つながりで『大学入学式、スーツ黒一色の謎 減点嫌う社会を反映?』という記事を読んだ。一読して、「ああ、これもあの絶対失敗しない洗濯術、みたいなのと通底しているものだな」と思った。
失敗したくない。間違えたくない。間違えるのが怖い。間違えて悪目立ちしたくない。悪目立ちするくらいなら埋没したい。
だから黒スーツという「正答」を誰かに示されたら最後、恐ろしくてそこから離れられなくなる。
……んだろうな、と、合点した。
これは現在高2、中1、小3になる三人の娘を私が育ててくる間にも、学校生活などのなかで我が子のみならず今の子どもたちを眺めているうちに見え隠れしている感情だった。
子どもたちが学校生活の中で醸成していく、「お前は間違ってる、おかしい、普通じゃないと決めつけられかねないネタを提供したくない」という守りの姿勢。そこに確実に存在するある種の恐怖感というもの。
しょせん「たかが家事」の範疇である、どうでもいいような「セーターの洗濯頻度」「バスタオルの洗濯頻度」「シーツの洗濯頻度」の3つというのが、実は家事分野の三大炎上ネタなのだけれど、その燃焼を助けているのもここに通底する「恐怖感」なのだろうと私は思っている。
世の中にある不定形な「当たり前」や、「常識」や、「育ち」という「枠」への反発と恐怖が、家事にも、教育にも、渦巻いている気がしてならないのだ。
しかしそんな恐怖の圧力は反作用を呼ぶ。
子どもたちがスマホを繰って放課後の SNSであやしい自己アピールしたり、盛った動画を果てしなく見続けては自分でも作り披露する危なっかしい動きのなかに、「埋没したくない、一目置かれたい、目立ちたい!」という、恐怖に相反した強い思いを見つけないわけにいかない。
いま一歩間違えたら人生すら棒に振りかねない、昨今のSNSや動画の取り扱いというタイトロープの上に、本当は水洗いできなかった縮んだセーターを干しているような世の中で、いったいどんな「正答」を示せばいいものだろうか。
これが今の私にとってのメインテーマであり、果て無き問いなのである。
ガイドの原点【家事・掃除ガイド 藤原 千秋】
「家事・掃除ガイド」の藤原さんの守備範囲は幅広い。キレイなお家のキレイなお掃除なんて、永久ではない。油断をすればすぐに顔を出すヌルヌル、ドロドロ。あまりお付き合いしたくない害虫やカビのことまで、分析、調べ、予防し、駆除する記事は、不思議なことに不潔感はない。誰にも真似のできないユーモアとパッションに溢れる記事を書く、藤原さんの原点を探る。
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