<オピニオンvol.2>日本はいかにして“支えが必要な人”を減らし、“支える人”を増やすのか ― 生涯学習の新たな可能性 ―
業界で起きているニュースを取り上げ、解説や分析、意見を掲載するコーナー「Opinion」。今回はオールアバウトグループにおいて、生涯学習事業を推進するオールアバウトライフワークス・代表の菱倉さんが登場。人生100年時代と言われる超少子高齢化社会のいま、要介護などで支えが必要な人を増やさないために生涯学習ができる解決策について言及します。
■日本は「生涯現役社会」をどのように実現するのか?
「人生100年時代」が到来しようとするなか、国は、年齢で現役かどうかを区切るのはやめて「生涯現役社会」を実現しようとしている。その社会の実現には “支えが必要な人”を減らし、“支える人・チカラ”を増やすことが大きな課題だ。
課題の解決に向けて国は、AIやロボット化によってスキルや経験不足を補い、これまでよりも少ない人口で成果を出す取り組みや、“現役力のある人”に対して、学び直しの推進・働き方改革によって働く意欲があっても仕事に就けなかった人の就業化を進めている。就業機会の創出のほかもう一つ重要なのは認知症や要介護といった「支えが必要な人」を増やさないことだ。
課題の解決に向けて国は、AIやロボット化によってスキルや経験不足を補い、これまでよりも少ない人口で成果を出す取り組みや、“現役力のある人”に対して、学び直しの推進・働き方改革によって働く意欲があっても仕事に就けなかった人の就業化を進めている。就業機会の創出のほかもう一つ重要なのは認知症や要介護といった「支えが必要な人」を増やさないことだ。
■高齢者のフレイル(虚弱)を解消するキーワード「生涯学習」
人が要介護状態に至るにはいくつかの過程がある。筋力が衰える「サルコペニア」を経て、生活機能障害が生じることで心の活力が低下し、体がストレスに弱くなる「フレイル」に陥り要介護となる。加齢による身体機能の衰えは避けられないが、この「フレイル」は、一人住まいや経済的困窮などの社会的要素、認知機能の低下など精神的要素が大きく関わると言われ、早期に対応することで要介護に至るのを防ぐことができる。
具体的な予防策として、社会参加、特に生涯学習活動やボランティアが有効である。外出のために自然と足腰の筋力を使い身体能力を維持し、会話することによって口周辺の筋力を使い食べる力も持続される。さらに言うと、人との交流は精神的抑圧やひきこもりを解消する効果が期待されているわけだ。
具体的な予防策として、社会参加、特に生涯学習活動やボランティアが有効である。外出のために自然と足腰の筋力を使い身体能力を維持し、会話することによって口周辺の筋力を使い食べる力も持続される。さらに言うと、人との交流は精神的抑圧やひきこもりを解消する効果が期待されているわけだ。
そのような背景から、国や自治体、医療機関、ドラッグストアチェーン・大規模商業施設など地域密着型企業が、定期的に生涯学習教室を開講したり、高度成長期につくられた大規模住宅がコミュニティを重視した再生計画に取り組んだりしている。
今後、団塊世代が後期高齢者になる2025年を目前にこれらの動きは加速し、これまでの余暇や販促・集客目的のイベントとして開催されていた生涯学習が、地域社会の中核として重要な意義をもつ時代がやってくるだろう。
今後、団塊世代が後期高齢者になる2025年を目前にこれらの動きは加速し、これまでの余暇や販促・集客目的のイベントとして開催されていた生涯学習が、地域社会の中核として重要な意義をもつ時代がやってくるだろう。
■プロの「生涯学習講師」の必要性
ここで問題になるのが、生涯学習教室のクオリティだ。
その場で行われる生涯学習は、わざわざ外に出かけて参加したくなる内容であることはもちろん、集い、仲間と楽しい時間をすごして、また来たいと感じさせられることが重要になる。しかしながら、地域包括ケアや高齢者のフレイル予防などの取り組みは費用がかからない体操や歌などが大半。手芸・クラフトも無償や数百円の材料代のみで実施されていることが多く、ボランティアで賄われているのが実状だ。
コミュニティオーガナイザーの役割として、人を引き付けるイベントの設計、運営力が生涯学習講師に求められるなか、ボランティアではできることに限りがあるし、持続可能なモデルになりがたい。生涯学習の活性化には、プロの生涯学習講師という職業の確立、報酬を得られる仕組みの整備が必要だ。
私が代表を務めるオールアバウトライフワークスの「楽習フォーラム」事業では、分野ごとに共通の技術審査を合格した生涯学習講師を会員組織化している。会員の方々は自宅教室やカルチャースクールで講師業を行い、それで収入を得る。単に作業手順を教えるのではなく、体系化された技能知識に基づいて、生徒さんのわからないこと、いきづまるところに的確な助言を行って、教材を完成に導くことができ、生徒さんはそこに価値を感じ対価を支払っている。技術力があるからこそ、生涯学習講師は様々なレベルの人を完成に導きながらも、コミュニティの盛り上げにゆとりを持って取り組めるのだ。
その場で行われる生涯学習は、わざわざ外に出かけて参加したくなる内容であることはもちろん、集い、仲間と楽しい時間をすごして、また来たいと感じさせられることが重要になる。しかしながら、地域包括ケアや高齢者のフレイル予防などの取り組みは費用がかからない体操や歌などが大半。手芸・クラフトも無償や数百円の材料代のみで実施されていることが多く、ボランティアで賄われているのが実状だ。
コミュニティオーガナイザーの役割として、人を引き付けるイベントの設計、運営力が生涯学習講師に求められるなか、ボランティアではできることに限りがあるし、持続可能なモデルになりがたい。生涯学習の活性化には、プロの生涯学習講師という職業の確立、報酬を得られる仕組みの整備が必要だ。
私が代表を務めるオールアバウトライフワークスの「楽習フォーラム」事業では、分野ごとに共通の技術審査を合格した生涯学習講師を会員組織化している。会員の方々は自宅教室やカルチャースクールで講師業を行い、それで収入を得る。単に作業手順を教えるのではなく、体系化された技能知識に基づいて、生徒さんのわからないこと、いきづまるところに的確な助言を行って、教材を完成に導くことができ、生徒さんはそこに価値を感じ対価を支払っている。技術力があるからこそ、生涯学習講師は様々なレベルの人を完成に導きながらも、コミュニティの盛り上げにゆとりを持って取り組めるのだ。
■実証事業から見えてきた生涯学習講師の可能性
フレイル予防という日本社会の課題に対して、生涯学習講師が果たす役割は大きい。私たちも2017年度から実験的な取り組みを開始している。本年春には地域包括ケア事業に力をいれるドラッグストアチェーンに「楽習フォーラム」の講師を派遣し、店舗スペースで生涯学習教室を2ヶ月で8回開催。回を重ねるごとに講師との間の関係性が築かれ、リピーターが増えることが確認でき、地域の商業施設が高齢者のコミュニティとして活性化する可能性が見い出だせた。
また、2017年10月から半年にわたり長野県松本市で地域住民の講師養成および地域での活躍実証事業に取り組んだ。花いっぱい運動で地域活性を図る松本市に親和性の高い「フラワーゼリーケーキ」を題材として、独自の講座プログラムを立案し、地域住民40名が受講し、うち2名を認定講師にすることができた。今後も育成された講師は地域のコミュニティリーダーとして、地域高齢者のフレイル予防を担っていく予定だ。
また、2017年10月から半年にわたり長野県松本市で地域住民の講師養成および地域での活躍実証事業に取り組んだ。花いっぱい運動で地域活性を図る松本市に親和性の高い「フラワーゼリーケーキ」を題材として、独自の講座プログラムを立案し、地域住民40名が受講し、うち2名を認定講師にすることができた。今後も育成された講師は地域のコミュニティリーダーとして、地域高齢者のフレイル予防を担っていく予定だ。
長野県松本市での実証事業
趣味講座の中間資格者を育成することで、趣味から就労へのスムーズな移行や、地域での活躍に関して可能性を調査しました。(題材:フラワーゼリーケーキ)
まだ「市場」として確立しているものではないが、講師派遣を行う事業会社や、高齢者向け指導者資格団体、さらには高齢者施設の運営を受託してレクリエーションコンテンツや講師育成を行う事業会社が増えている。オールアバウトライフワークスも、幅広いコンテンツや全国15,000人の講師ネットワークを活かし、先行きが不安な日本に、「生涯学習」という切り口で希望のある未来を切り拓いていきたい。
執筆者:菱倉 英一(ひしくら えいいち) 京都大学法学部卒業。1995年4月株式会社リクルート入社。人材ビジネス事業部門に在籍。2005年1月株式会社オールアバウト入社。広告ビジネス事業部門を経て、社長室にて新規事業開発、海外ビジネス事業に従事。2012年9月株式会社コロネット(現オールアバウトライフワークス)専務取締役に就任。2012年12月日本デコずし協会理事長就任。2016年6月より現職。 |
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