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ケーキがもたらす心の栄養。母が教えてくれた“スイーツのもつ力”を伝えたい。【スイーツガイド 下井 美奈子】

SEから一転、お菓子作りを職にすることを決意し、スイーツコーディネーターとして確立。幼い頃から“スイーツのもつ力”を信じ続ける、下井さんの原点。

All About【スイーツガイド 下井 美奈子】

下井 美奈子(しもい みなこ) 実家の母が“鎌倉下井お菓子教室”の講師ということから、子供の頃からスイーツの食べ歩きや製菓製作を行う。一般企業退職後、渡仏しパリRitz Escoffierで料理・菓子のディプロム取得。渡仏中、ル・コルドンブルー、ルノートル、フランス家庭菓子、イギリス家庭菓子など学ぶ。 2年間のロサンゼルス在住中、各国の製菓料理を学ぶ。All Aboutでは立ち上げ当初からスイーツガイドを担当。 多数のメディアで洋菓子情報を紹介する他、商品開発、レシピ提供を行うスイーツコーディネーター。

ケーキは、周りを幸せにするもの

「ケーキって、楽しい」
幼少の頃からずっとそう思い続けていると下井美奈子さん(以下、美奈子さん)は語る。その原点には、お菓子研究家である母・佳子さんの存在がある。

美奈子さんが3歳のとき、佳子さんがお菓子教室をはじめたこともあり、日常に手作りお菓子があるのはごく普通のことだった。また、誕生日やクリスマスなどのイベントには、決まってケーキを作ってくれた。「手作りのケーキが、記念日やイベントをより特別なものにしてくれるのを幼心に感じていました。それに、友人たちがいつも母のケーキを喜んでくれるのが嬉しかったですね」

小学生の頃だった。ケーキにトッピングされた金粉を美奈子さんがロウソクの炎を消すと同時に吹き飛ばしてしまったことで、友人たちは大爆笑に。当時のメンバーと集まると、今でもこの話題になるほどだ。

佳子さんの作るケーキやお菓子、それにまつわる数々の楽しいエピソード。そしてなにより、スイーツがもたらす幸福感や周囲の人に与える影響、スイーツのもつ力を、成長を追うごとに感じていった。

また、佳子さんがお菓子の研究のためにと店へ訪れる際は、いつも一緒に連れて行ってくれたことも、後の仕事につながっているという。「母のおかげで、いろいろなお菓子を食べたり、知ることができました。この経験があるから、スイーツのおいしさが見極められるようになったんだと思います」

「幼い頃、母と一緒によくケーキも作りました」と語る美奈子さん。現在は、息子さんと一緒にお菓子作りをしているという


現在でも、スイーツを食べない日はないという。

SEからお菓子作りの道へ

現在、スイーツコーディネーターとして活躍する美奈子さんだが、佳子さんからお菓子作りの仕事を薦められたことは一度もない。「母が口にしていたのは“あなたの人生は自分で決めなさい”と。自分の仕事を薦めて、後々文句を言われるのが嫌だったみたいなんですけど(笑)」

大学卒業後は、日本電信電話株式会社(分社化する前のNTT)に総合職として入社。夢中で働き3年経った頃、SEの技術はどんどん進化する“流れていく技術”、いくら習得しても長くは続かないと思うようになった。
そんなとき、佳子さんがシフォンケーキの本を出版することになり、美奈子さんもそれを手伝い始めた。次第に、「お菓子には歴史があり、その技術は変わらないこと。それゆえ、お菓子作りの仕事なら、この先も長く続けられる。その証拠に母はずっとこの仕事を続けているのだから」―と思うようになった。

お菓子作りを職にすることを決意し、会社を退職。フランス・パリにある料理学校「リッツ・エスコフィエ」に留学した。製菓と料理を学ぶだけでなく、本場のおいしいお菓子を求め食べ歩いた。「当時はまだ日本になかったジャン=ポール・エヴァンのショコラや、ラデュレのマカロンのおいしさも、このときに知りました。食べ歩いて学んだことも多かったですね」

近著に「3つ星スイーツ―プロが選ぶ究極の逸品130」がある。


3ヶ月の留学期間に、料理とお菓子の資格を取得。さらに、ル・コルトン・ブルーなどでもお菓子を学ぶ。

同僚5人で結成した「OL美食特捜隊」

美奈子さんは「OL美食特捜隊」のメンバーでもあった。OL美食特捜隊とは、1999年、会社員時代に結成した食べ歩き好きの同僚女子5人によるもの。自分たちでホームページを立ち上げ、そこに食べ歩いたレストラン情報を掲載し、さらにはメルマガの配信も行った。「趣味ではじめたことなのですが、顔写真入りで食べ歩いた情報を発信するのは、その頃としては画期的だったみたいです(笑)。メルマガの会員も、当時としては多い3万人もいましたから」

OL美食特捜隊は、メディアでも取り上げられ、テレビ番組への出演や書籍を出版するなど、注目を浴びた。美奈子さんは使命感も強く、留学先のフランスでも情報を発信し続けた。「当時のフランスはとにかくインターネット事情が悪くって。大きな駅の公衆電話までノートパソコンを持ち込み、ダイヤル回線で接続して情報をアップしていました」
OL美食特捜隊は9年も続いたが、各自が多忙になりすぎ、食べて書く暇がなくなったことから解散へ。

写真のクオリティも大切にしていると美奈子さん。数あるカメラを持つ中、現在のお気に入りはSONYのデジタル一眼カメラ「α NEX-5N」

スイーツコーディネーターとしての確立

留学から帰国後、All Aboutから声がかかりガイドに就任。洋菓子ガイドとしてお菓子やレシピの情報を発信しはじめた。すると、佳子さんのお菓子教室の手伝いだけでなく、レシピ提供や商品開発、雑誌でのコラム掲載など、仕事の幅がどんどん広がり、「スイーツコーディネーター」としての地位を確立していく。
さらに、ご主人の海外転勤に付き添い、2年間アメリカ・ロサンゼルスで過ごしたことで、合理的なレシピを学ぶことができ、その後のレシピ開発につながった。

スイーツコーディネーターとして活動して13年。お取り寄せ情報にも定評があり、現在は、おとりよせネットで「おとりよせの達人」として連載を持つ。「子どもを持つようになってから、よりお取り寄せフリークになりました。選ぶ基準は、私自身が大好きな、おいしいもの。それと、できるだけ無添加のものを選ぶようにしています。親になると、とくに気になりますからね」


「アメリカで世界各国のお菓子に出合えたことや、アメリカならではの合理的なレシピを学んだことは、今もレシピ開発などに大きく役立っています」

留学中に学んだレシピは多数。今でもレシピ開発のベースになっている

スイーツは心の栄養

おいしいスイーツには、パティシエの地道な努力がある。けれど、華やかなケーキやお菓子からは、想像できない。「あるパティシエの方に“いくら一生懸命お菓子を作っても、大勢の人に知ってもらうには、その情報を発信してもらうしかない”と言われたことがあるんです。だから、その思いや努力を伝えるためにも、おいしいスイーツを紹介し続けたいと思っています」

また、「スイーツは心の栄養」と語る美奈子さん。美奈子さん自身、つらいことがあったときにケーキを食べたら、とにかく元気になれた。どんなに忙しくても、つらくても、スイーツを食べれば、心にゆとりができて、幸せな気持ちになる―その思いを伝えたく、東日本大震災直後にコラムを書いた。“こんなときだからこそ、ケーキを食べよう。ケーキは心の栄養だから”と。そのコラムは読者から多くの共感を得た。

最後に、美奈子さんがこれまで食べた中で、もっともおいしいスイーツをたずねると、「やっぱり、幼い頃から食べている母が作るシフォンケーキです。当時からベーキングパウダーを一切使っていない無添加なんです。ナチュラルなもののよさを知っているのも、母のおかげですね(笑)」

美奈子さんにとって、佳子さんは尊敬している女性でもあるという。佳子さんは、現在も鎌倉の自宅でお菓子教室を開催している
文/山本初美 写真/平林直己
※本記事の内容は取材時点(2013年8月)の情報です。
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