一杯のコーヒーに秘められている作り手の情熱や世界観そのストーリーを伝えていきたい【カフェガイド 川口 葉子】
カフェを愛し、カフェを記録して残したいと始めたサイトが、時代の流れともリンクして、川口さんをカフェの第一人者に押し上げた。カフェとはコーヒー一杯分の時間を提供してくれる場所。そう語る川口さんの原点とは
All About【カフェガイド 川口 葉子】
川口 葉子(かわぐち ようこ) ライター、喫茶写真家。Webサイト『東京カフェマニア』主宰。著書に『東京カフェを旅する』(平凡社)、『京都カフェ散歩』(祥伝社)、『カフェとうつわの旅』(青山出版社)ほか多数。雑誌、Web等でカフェやコーヒー特集の監修、記事執筆多数。 |
美しい化石としてカフェを記録に残したい
「小さいころの夢は考古学者になることでした。大切に思っているカフェを写真と文章で記録し始めたのも、わずか数年で消えてしまうことも少なくないカフェを、せめて美しい化石として保存したかったから。100年後に誰かが『東京のカフェのかけら』として発掘してくれたら、こんなにうれしいことはないですね」
こう話す川口葉子さんの個人ホームページ「東京カフェマニア」は、1999年末の開設からすぐに、その選択眼の確かさと趣のある独特の語り口で多くの読者を獲得。魅力的なカフェを探す指針として厚い信頼を得ている。
高校生の頃から喫茶店を頻繁に利用していた川口さんが、「東京カフェマニア」の開設に踏み切ったのは、通っていたカフェの閉店がきっかけだった。
「毎夏、夫の出身地である伊豆大島に出かけ、海で泳いだ後は、ネイティブ・アメリカンの音楽が流れ、島の音楽好きの憩いの場所となっていたカフェを訪れるのを楽しみにしていました。ところがある年、いつものように行ってみたら、そのお店が大家さんの都合で立ち退きを余儀なくされ、閉店していたんです。なにげなくカフェに座っていた間は、この空間は永遠に続くものだと思いこんでいたのに、現実はそうではなく、ある日突然なくなってしまうこともある。いつかは私の記憶も薄れてしまうでしょう。そう気がついたら、なんとしてでも記録として残しておきたくなりました」
こう話す川口葉子さんの個人ホームページ「東京カフェマニア」は、1999年末の開設からすぐに、その選択眼の確かさと趣のある独特の語り口で多くの読者を獲得。魅力的なカフェを探す指針として厚い信頼を得ている。
高校生の頃から喫茶店を頻繁に利用していた川口さんが、「東京カフェマニア」の開設に踏み切ったのは、通っていたカフェの閉店がきっかけだった。
「毎夏、夫の出身地である伊豆大島に出かけ、海で泳いだ後は、ネイティブ・アメリカンの音楽が流れ、島の音楽好きの憩いの場所となっていたカフェを訪れるのを楽しみにしていました。ところがある年、いつものように行ってみたら、そのお店が大家さんの都合で立ち退きを余儀なくされ、閉店していたんです。なにげなくカフェに座っていた間は、この空間は永遠に続くものだと思いこんでいたのに、現実はそうではなく、ある日突然なくなってしまうこともある。いつかは私の記憶も薄れてしまうでしょう。そう気がついたら、なんとしてでも記録として残しておきたくなりました」
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カフェにゆるやかに流れる時間を独特の筆致と写真で切り取っている川口さんにとって、カメラは頼もしい相棒だ。いかにお店の魅力を伝えるか。今日も真剣勝負が始まる。(http://allabout.co.jp/gm/gc/196928/)。 |
自分の好みと世の中の動きが合致した
大学卒業後、外資系IT企業に勤務し、Webデザインの仕事に従事していた川口さんにとって、ホームページを作りカフェを記録する作業はさして難しいことではなかったようだ。
「会社員としてやってきたことは、いまの仕事にすべて役立っています。Webデザインの技術も学べましたし、アポ取りなどのビジネスマナーも身につけることができた。ムダな経験は一つもありません」と川口さんは振り返る。
ホームページは1軒のカフェの紹介記事からスタート。その後、2、3日に1軒のペースで掲載するカフェの数は増えていったが、写真撮影の許可を得る際、川口さんはずいぶんと緊張したという。今でこそ、「東京カフェマニア」といえばカフェ好きはもちろんのこと、カフェ経営者の間でも高い知名度を誇るが、開設当初は当然ながらまったくの無名だったからだ。
しかし、すぐに活路が開ける。ホームページ開設から半年後には、雑誌でホームページが紹介され、その後、出版社からも「ホームページの内容を本にしませんか」とのオファーが届く。取材を進めやすい状況はみるみるうちに整った。著作もすでに20冊近い。
「ちょうどカフェが注目されはじめた時代でもあり、個人のホームページ作りが流行りだした時期でもあった。自分の好みと世の中の動きがたまたま合致していたように思います」
「会社員としてやってきたことは、いまの仕事にすべて役立っています。Webデザインの技術も学べましたし、アポ取りなどのビジネスマナーも身につけることができた。ムダな経験は一つもありません」と川口さんは振り返る。
ホームページは1軒のカフェの紹介記事からスタート。その後、2、3日に1軒のペースで掲載するカフェの数は増えていったが、写真撮影の許可を得る際、川口さんはずいぶんと緊張したという。今でこそ、「東京カフェマニア」といえばカフェ好きはもちろんのこと、カフェ経営者の間でも高い知名度を誇るが、開設当初は当然ながらまったくの無名だったからだ。
しかし、すぐに活路が開ける。ホームページ開設から半年後には、雑誌でホームページが紹介され、その後、出版社からも「ホームページの内容を本にしませんか」とのオファーが届く。取材を進めやすい状況はみるみるうちに整った。著作もすでに20冊近い。
「ちょうどカフェが注目されはじめた時代でもあり、個人のホームページ作りが流行りだした時期でもあった。自分の好みと世の中の動きがたまたま合致していたように思います」
旅行も大好きな川口さん。旅のお供として欠かさず持ち歩いているのがコーヒーセットだ。ペーパードリップで淹れたコーヒーを列車や飛行機の中でも楽しんでいる。(http://allabout.co.jp/gm/gc/196928/)。 |
小泉誠さんの主宰する「こいずみ道具店」で買った、川口さんお気に入りの漆のコーヒーカップ。tocoro cafeの空間も、同じデザイナーが創り出しているそうだ。 |
嫌なものを減らすことを追求した結果がいまの私
もうひとつの転機となったのがAll Aboutのガイド就任だ。2003年に会社を辞めた直後、All Aboutの「カフェ」ジャンルでの募集を知った友人から「あなたがやるしかないでしょう」と勧められ、応募。「100本のリンク集の作成」というハードな課題も乗り越え、川口さんは熱心に記事を更新していった。現在、「東京カフェマニア」ではカフェから依頼された求人情報やカジュアルな情報を主に掲載し、カフェに取材した内容はAll Aboutに紹介するという形でサイトを住み分けしている。
「軽い気持ちで応募しましたが、もともと書くのが好きだったから続けてこられた。人間には綿密に計画を立てて物事を進めていくタイプと、その時々のなりゆきにまかせるタイプの2種類がいますが、私は明らかに後者(笑)。無理をせず、嫌なものや苦手なものをできるだけ減らすことを追求した結果がいまなんです」
こう笑う川口さんだが、取材姿勢や手掛ける記事の完成度は「真剣勝負」という言葉がふわしい。綿密な取材をもとに細部に至るまで抜かりなく、店の個性、店主の魅力を鮮やかに描き出す。この店にぜひとも行ってみたい。読者にそう思わせる強力な熱源が、柔らかな文章の随所に満ちている。
「軽い気持ちで応募しましたが、もともと書くのが好きだったから続けてこられた。人間には綿密に計画を立てて物事を進めていくタイプと、その時々のなりゆきにまかせるタイプの2種類がいますが、私は明らかに後者(笑)。無理をせず、嫌なものや苦手なものをできるだけ減らすことを追求した結果がいまなんです」
こう笑う川口さんだが、取材姿勢や手掛ける記事の完成度は「真剣勝負」という言葉がふわしい。綿密な取材をもとに細部に至るまで抜かりなく、店の個性、店主の魅力を鮮やかに描き出す。この店にぜひとも行ってみたい。読者にそう思わせる強力な熱源が、柔らかな文章の随所に満ちている。
取材の際に欠かさず持ち歩くICレコーダーと手帳。 |
1通の手紙で、取材・執筆に対する心の持ち方が変化
All Aboutのガイドを続けるうちに、カフェの取材と執筆に対する川口さんの「心の持ち方」は自然に変化していった。
「最初は『保存欲』からスタートしましたが、そのうち、自分が書くことを通して、社会に何をプレゼントできるんだろうかと考えるようになった。契機になったのが、あるお店の方からいただいた丁寧なお手紙です。空間づくりやメニューの背後に見え隠れしている、オーナーの志や理想とする世界のようなものに目が向いて、それらをピックアップして書いたところ、とても喜ばれたんですね。謙虚なオーナー自身があえて口に出さないことを読み取り、自分が伝えていこうと強く思うようになりました。それを通して、良いカフェが人々に長く愛され、続いていくこと、ひいては街に自由で気持ちのいい場所が増えていくことにつながれば」
単なるカフェの記録の保存でもなければ、よくある“美味しい”というグルメ記事でもない。店主やスタッフがカフェを通して何を実現し、何を目指しているのか。「東京カフェマニア」や川口さんの著作物が他のカフェ本と一線を画し、「何度も何度も読み直した」という熱心な読者を生み出している理由はそこにある。
「最初は『保存欲』からスタートしましたが、そのうち、自分が書くことを通して、社会に何をプレゼントできるんだろうかと考えるようになった。契機になったのが、あるお店の方からいただいた丁寧なお手紙です。空間づくりやメニューの背後に見え隠れしている、オーナーの志や理想とする世界のようなものに目が向いて、それらをピックアップして書いたところ、とても喜ばれたんですね。謙虚なオーナー自身があえて口に出さないことを読み取り、自分が伝えていこうと強く思うようになりました。それを通して、良いカフェが人々に長く愛され、続いていくこと、ひいては街に自由で気持ちのいい場所が増えていくことにつながれば」
単なるカフェの記録の保存でもなければ、よくある“美味しい”というグルメ記事でもない。店主やスタッフがカフェを通して何を実現し、何を目指しているのか。「東京カフェマニア」や川口さんの著作物が他のカフェ本と一線を画し、「何度も何度も読み直した」という熱心な読者を生み出している理由はそこにある。
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