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マーケティングは売る仕組みではない 顧客との関係づくりそのものだ【マーケティングガイド 安部 徹也】

銀行を辞めて渡米し、努力の末に念願のMBAを取得したものの、仕事が見つからない。絶望の淵で「自分の価値」は何かを模索し、マーケティングのプロとして起業の道を選択。チャンスをひとつひとつ確実に生かしてきた安部さんの原点。

All About【マーケティングガイド 安部 徹也】

安部 徹也(あべ てつや) 九州大学卒業後、現三井住友銀行に入行。銀行退職後に渡米し、ビジネススクールで最先端のマーケティング理論を学ぶ。MBA取得後、経営コンサルティングを行うMBA Solutionを設立し、代表に就任。「ビジネスパーソン最強化プロジェクト」主宰。

自分で事業を起こすしか道がなかった

マーケティングから経営戦略、銀行融資関連まで、経営全般をテーマにセミナーや講演を手がけ、話題のビジネス書を次々に上梓し、ビジネスプロデューサーとして活躍する安部徹也さんは、9.11のテロが発生した2001年、どん底の気分を味わっていた。

バブル時代の只中に都市銀行に就職。7年後にMBA取得を目指して銀行を退職し、渡米してThunderbird(アメリカ国際経営大学院)でGlobal MBAを取得した安部さんだったが、日本に戻ってみると思うような仕事が見つからない。先行きが見えず途方に暮れた。

「景気が最悪でしたからね。自分で事業を起こすしか道がなかった。かといって、最初からうまくいくわけがありません。暗いトンネルの中でもがいた末に出した結論が、自分の価値を発見し、人に伝えていくことでした」

トンネルから抜け出すためのメルマガ発行

自分の価値とは何か。MBAを取得したことだ。だったら、そこで学んだことを必要とする人たちにわかりやすく伝えよう。自分の価値を棚卸しした結果、そう決意した安部さんは、ひとつの手段として2003年からメールマガジンを発行した。

「いまならフェイスブックやツイッターがありますが、当時はメールマガジンしかなかった。私にとってはトンネルを抜け出すために目の前に降りてきた1本の蜘蛛の糸でした」

メルマガを発行するうえで安部さんが心がけたのは、読者との関係づくりだ。会社の宣伝色は排し、「こういうテーマを読みたいに違いない」と読者の顔を思い浮かべながら、1本のメルマガ作成に丸1日もの時間を費やし、マーケティングをわかりやすく解説した。

メーカーがプリンタを赤字で販売しても利益があげられるのはなぜか。
プロバイダはなぜお金を払ってまで会員を集めるのか。

身近な事例をもとに、マーケティングのメカニズムと醍醐味を解きほぐしていく安部さんのメルマガは人気を集め、気がつけば読者は2万4000人弱に達していた。

勤めていた都市銀行を辞めた安部さんは私費で米国に渡り、2001年にThunderbird(アメリカ国際経営大学院)にて念願のGlobal MBAを取得した。現在のキャリアのベースである。

「蜘蛛の糸」をあきらめない

オールアバウトのガイドになったのは2005年。ある日サイトを訪れ、たまたま「マーケティングガイド募集中」の表示を目にした安部さんは、躊躇せず応募に踏み切った。当時、経営コンサルティングやビジネス教育事業を展開していたが、なかなか業績が伸びず、次の布石を考えていた安部さんにとって、ガイドは新たなる「蜘蛛の糸」だったのだ。しかし、そこからの道のりは険しかった。

「正直なところ、1次、2次審査はすぐに通ったので『これは簡単にガイドになれそうだ』と高をくくっていたんですが、2回続けての不合格。最終審査は本人が納得がいくまでトライできたので、プロデューサーのアドバイスを踏まえて3回目にチャレンジしましたが、またもや撃沈。突破することはできませんでした」

プロデューサーからは「もうあきらめますか」という言葉をかけられたが、安部さんはどうしてもあきらめきれなかった。ビジネスのステップアップにはオールアバウトガイドの肩書きが重要な鍵を握る。そう感じていたからだ。

就任1年で記事が年間ナンバーワンに

3回目の審査に落ちた安部さんは、記事を徹底的に読者目線で見直した。読者に面白いと感じてもらえる中身を追求し、背水の陣で4回目の最終審査に臨んだ。心臓の鼓動を感じながら審査の結果を知らせるメールを開くと、目に飛び込んできたのは「合格」の2文字。安部さんの苦労はようやく実った。細かった蜘蛛の糸が、しっかりとした手応えのあるロープに変わった瞬間だ。

念願のガイドに就任して1年。安部さんの書いた記事「なぜ、『PS3』は赤字でも販売したのか?」は100万以上のアクセスを達成し、500ガイド・6万記事の中から見事年間ナンバーワンに輝いた。

「記事がYahoo!トピックスに3日間掲載されるという幸運もありましたが、マーケティングはどんな環境であれ結果を残すことが重要ですから、それを実践できたのは本当にうれしかった。自分の自信にもつながりました」

常にスマホで最新のニュースのチェックや情報の入手を心がけると同時に、日経3紙にも入念に目を通す。「世の中の流れを知るには新聞は欠かせない」と安部さん。

強いコミュニティを作り、ファンを拡大したい

安部さんはメルマガを発行し、オールアバウトの記事を精力的に執筆する傍ら、著作の出版に向けても動き始めていた。

「自分ブランドを高めるためにぜひとも本を出版したいと考え、30社に企画書を送付しました。知り合いなどいませんから、出してくれそうな出版社を選んで送りつけたんですよ。普通なら素人の企画書など相手にされるわけはないのでしょうが、オールアバウトのガイドというだけで、そのうち6社から『話を聞きたい』という連絡をいただきました」

ガイドという肩書きに加えて、安部さんが送り出す記事がどれも裏付けや根拠が明確で、読者目線が貫かれた読み応えのある内容だったからにほかならない。返事が来た6社のうち2社から出版が決まり、今では安部さんの著作は7冊にまで増えている。2013年も3冊の新作が上梓される予定だ。

「マーケティングはただ単に商品を売る仕組みではなく、顧客との関係づくり。私も、『コミュニティ』をキーワードに、ファンとの交流やディスカッションを通じて強いコミュニティを作り、ファンを拡大していきますよ」と笑顔で語る。

オールアバウトのマーケティングガイドとして情報を発信し続ける原動力は、かつて自分自身が苦労した「売上が上がらない」という深刻な悩みを抱える経営者やマーケティング担当者に自身の経験や考えを伝えることによって、ひとりでも多くの人を救いたい気持ちだという。

顧客が変わり続ければ、マーケティングも変わり続ける─。

これからもオールアバウトのマーケティングガイドという役割を通して、どんな環境でも顧客に価値を提供するマーケティングを伝え続けてくれるに違いない。


出版社に企画書を送り、うち2社で出版が確定。自著の出版にこぎつけた。メルマガの発行やオールアバウトのガイドを地道に続けてきた安部さんの行動力の賜だ。

ビジネス経験を通して人格を高めたい─。安部さんはそう強調する。「自分の力だけではここまで来られなかった。大事なのは心のつながり。常に謙虚でいなければと、いつも自分を戒めています」
文/三田村蕗子 写真/金田邦夫
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