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ポップカルチャーはおもしろい。個々の多様性を尊重する社会が豊かな文化を作っていく【ゲーム業界ニュースガイド 田下 広夢】

ゲーム業界ニュースガイドとしての田下さんの記事は、ゲームの攻略法や紹介をするものではない。そのときどきの社会や文化に関連付けた的確な考察が、幅広い層に人気がある理由だ。田下さんのガイドの原点とは

All About【ゲーム業界ニュースガイド 田下 広夢】

田下 広夢(たおり ひろむ) ゲームと社会問題との関わりや、ゲームと文化、ゲームとビジネスなどについて多角的に考察するライター。 ゲーム初体験は5歳。任天堂から発売されたゲーム&ウォッチ。以来、ゲームと共に育つ。 ゲームコラムなどを執筆する個人運営サイト「田下広夢の記事にはできない。」 また、毎週金曜日に開催されるゲームサロン、代々木ゲームルームを運営している。

みんなで集まってゲームで遊ぶ

毎週金曜日、代々木駅前のビルの地下で誰でも参加できるゲームサロン的場所、「代々木ゲームルーム」が開かれる。主宰するのは田下さん。「みんなで集まってゲームで遊ぶ」場を作りたくて始めたという。「ひとりでもフラッと来て、ゲームを一緒に遊べる仲間がいる」場が今後もっと増えていけばいいと考えている。参考記事http://www.gotogameroom.com/

田下さんはゲームマスターの役割であると同時に、初めてでゲーム内に入りづらく躊躇している人に声をかけ、遊びやすいように配慮をしている。

ゲームルームを始めてから1年半ほどたった最近では、お客さんが自分のボードゲームを持って来る。初めて会った者どうしが、古くからの知り合いのように和気あいあいとゲームに興じている。

最近凝っているという「人狼」のカード。手前左は渋谷の人狼ゲーム専用のドイツゲームスペースのもの。シンプルなデザインがお気に入り。奥左は、ワンナイト人狼。3人から短時間で遊べる。

ファミコンからドリームキャストへ

田下さんのゲーム歴は、保育園児の時のゲーム&ウォッチに始まる。が、やはりなんといっても忘れられないのは、小学校3年生の5月19日3時半に買ってもらったファミリーコンピューター、略してファミコンだった。日時や買ってもらった場所まで覚えているというから、その当時どれだけ田下さんがうれしかったかわかろうというものだ。

ゲームを愛する気持ち、新しいゲームに取り組む時のワクワク感は小学生の頃から今に至るまで変わらない。

転機があったとすれば、それは大学のときに購入したセガのドリームキャストだろうか。
新聞に掲載された「セガは倒れたままなのか?」という衝撃的な一面広告をみたときに、初めてゲームというものが単なるおもちゃではなく、ビジネスや産業といったものに大きく関わっていることを感じる。ただ、当時それは漠然とした思いでしかなかった。

1999年に発売された「湯川元専務のお宝探し」。キャンペーン期間中にドリームキャスト本体を買うとこのソフトをプレゼントされた。抽選で1万名に1万円が当たるというもの。うれしい反面、もっとユーザーのゲーム体験を豊かにしてそれをより多くの人に伝えることにお金を使うべきじゃないの?と感じた大学時代。

埋もれている現代美術を世に知らしめたい

造形大学の学生だった田下さんはその後就職、テレビ番組制作会社を経て、ホテル内に店舗を構え現代美術ギャラリー運営に携わることになる。

もともと美術には興味があったが、自分と同世代の人たちが、すばらしい作品を創っていながらなかなか評価されない現状を目にして、どうにか世に広めたいと考えて行動したのが、このギャラリー運営だった。残念ながら1年ほどで経営に行きづまり、手を引くことになる。
しかし、「世の中には、思いもかけない発想ですばらしいモノを創る人がたくさんいるにもかかわらず、知られることがなく埋もれている。なんとか世間に知らしめたい」という気持ちは以後続くこととなった。

胸を張って世界に誇れるモノや人は現代美術に限ったことではない。アニメ、演歌、原宿ファッション、お笑い、女子高生のふるまい、きゃりーぱみゅぱみゅ。そしてゲーム。どれもそのものがもつ本当の価値が、軽んじられていることはないだろうか。間違った評価を受けていることはないだろうか。

様々な人の手を経て作られたそれらの中には、すばらしい芸術に匹敵するようなものもある。それをメディアの側に立って紹介し、誤解があるのなら解いていきたいと田下さんは考えるようになっていき、ゲームライターとして活躍するようになった。

ファミコンコントローラーの名刺入れ。使い込んでいるお気に入り。

当たり前の事実をそのまま書く。

All Aboutガイドになったきっかけは、ガイドが紹介されているテレビ番組を見て興味を持ったことだった。そして「ゲーム業界ニュースガイド」の募集があることを知り応募、採用された。 

All Aboutの記事を書く上で心がけていることは、ふたつ。
ひとつは「知らない人に伝える」ということ。
たとえばゲーム雑誌などの記事は、ある程度ゲームについての知識を持つ層に向けて書く。しかしAll Aboutでは、ゲームについてあまり知らない層に向けてもゲームのおもしろさや知識が伝わるように書いている。ゲーム作りの裏話や、今の社会現象と関連づけている記事もあり、田下さんの記事は、業界人以外にもわかりやすく読みやすいと評判だ。

もうひとつは「当たり前の事実をそのまま書く」こと。

たとえば恋愛系ゲームにはまったら、ゲームの中の女の子を現実に存在する恋人だと思ってしまうだろうか?もし恋愛感情を抱いてしまったとしても、それがゲームの中の存在であることは、本人も分かっているはずだ。突飛な話をセンセーショナルに書けば、メディアに取り上げられてニュースになるだろう。しかしそれでは事実はゆがんでいくと田下さんは感じている。

「恋愛ゲームにはまるゲーマーたちもちゃんと現実とゲームの区別くらいついていますよ。あたかも生身の女の子と恋人かのように、臨場感出して楽しんでいるだけ。それを『現実との区別がつかなくなっているのでは?』などと指摘するような人こそ、むしろゲームと現実の区別がついていないよと言いたいんです」

そんな楽しみ方をする人がいてもいい。いろいろな人がいるのがおもしろいのだから。自分らしさを許容されない世の中は辛いのだ。

ただ、センセーショナルな記事を求めず、特定の意見に偏った記事も求めず、当たり前のことを当たり前として書かせてくれるのは、All Aboutの懐の深さでもあると感じている。

ツイッターで人狼

さて、ゲームに話を戻そう。
以前田下さんは、ニコニコ動画を使って、「風来のシレン」シリーズというゲームを生中継で攻略。ひとりでゲームをしながら何百人、何千人という人の意見を聞きつつ、攻略に成功するという体験をしたことがある。
流れてくる視聴者のコメントから多数派の意見を取り入れつつ進め、多くの仲間たちの協力のおかげで、一人ではできなかったゲームを攻略できたという体験は、非常にエキサイティングなものだった。その動画には、のべ30万人が見に来たという。

ニコニコ動画のような、ネットを通じて様々な形でユーザーがゲームに参加できる場と同時に、代々木ゲームルームのような場も大切にしたい。
今、田下さんはツイッターを使った人狼をやってみたいと考えている。

人狼とは、10人前後、あるいは20人以上で遊ぶことも可能な多人数参加型の推理パーティーゲームだ。人を食べる人狼と、食べられないよう人狼を捕まえる村人のチームに分かれ、与えられた役割とコミュニケーションによって、相手チームに勝利するゲームである。

ツイッターを使って人狼ゲームをするということは、後ろについているフォロワーの数だけアドバイスをもらえ、多くの推理をできるということだ(フォロワーが0人の人がいてもいい)。その状態で、ゲームルームで人狼をやってみるのはどうだろうか。

誰が嘘を言っているか、どう作戦を練るか、どう役割を使うか、フォロワーと相談しつつ目の前の敵と戦うというシチュエーションでは、今までになかったもっとおもしろい、奇想天外なドラマが生まれるのではないか、田下さんはそんな気がしている。

さて、筆者はある金曜日、代々木ゲームルームに行って遊んできた。全く初対面の人たちとまるで昔からの知り合いのように楽しくゲームで遊ぶことができた。遊んだ人たちとお互いの肩書きも、フルネームも最後まで知ることはなかった。もしかしたら、あの中のひとりは社長だったかもしれないし、求職中の人がいたかもしれない。ただおもしろいその場所があり、楽しかった思い出が残ったのみだった。これは、新鮮な体験だった。

また、たくさんのカードゲームを見て、そのシンプルなルールの中の奥深い面白さや、カードのデザイン性のすばらしさなどに感嘆して帰ってきた。

田下さんは日本独特の文化について、「既成のものを自分のものとして引きずり込んで、好きなように遊んで、全然違うものに進化させてしまうような自由さとパワーがある」という。ゲームもそのひとつ。ゲームを作る人、遊ぶ人、それぞれの多様性を尊重することが、社会をおもしろくすることにつながり、文化を醸成していくのだろう。

「おもしろい人やモノがおもしろいままに生きられる世の中が、『豊か』ということ。それが許される世の中であってほしいですよね」
田下さんは、その思いでこれからも日本のゲームをひとつの文化と位置づけて、淡々とあるがままを多くの人に伝えていきたいと考えている。

PS VITA(手前) とニンテンドー3DSLL 常にカバンに入れて持ち歩く。3分暇があればすぐ開始。
文/むなかたようこ 写真/平林直己
※本記事の内容は取材時点(2013年12月)の情報です。
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