見知らぬパン屋さんからのメール
All Aboutのサイトオープンと同時に、清水さんはパンのガイドを始める。夢だった“書いて伝えること”が実現したのだ。
「はじめのうちは、新しいパン、美味しいパンなど、いろいろ紹介していくだけでも楽しかったですね。それに志賀さんのような職人さんに会って、その姿を伝えていくことも楽しかった。でも、ある時、見知らぬパン屋さんから一通のメールをもらったんです」
そのメールには、苦悩するパン職人の姿が書かれていた。
「いまのパン業界が作っているものはより多くの人に消費してもらうための嗜好品にすぎません。嗜好品はいつかは飽きられてしまいます。そしてパン屋は飽きられないために毎日、新商品開発という不毛の努力を重ねているのだと思ってもいます。私も自分の店では、なるべく食事に使えるものを主体に作っているつもりではおりますが、商売となるとそれだけに頼ることは難しくなります」(原文ママ)
このメールを読んだ清水さんは大きなショックを受けた。もともとパン職人の多くが、労働時間が長く寝る間も削ってパンを焼いていることは知っていた。そのうえ、パンを焼くこと以外のことでなぜ悩まなくてはいけないんだろう、と。
「バゲットやカンパーニュのような食事パンは、そのまま食べるのではなく何かを添えたり合わせたりすることが必要です。惣菜パンや菓子パンは買ってそのまますぐ食べられる。早くて簡単で安いファストフード的なものが売れる世の中なんです。もちろん、選択肢としてファストフード的なパンがあってもいい。でも、それだけになってしまっては、日本のパン文化はどうなってしまうのだろうと思ったんです」
「はじめのうちは、新しいパン、美味しいパンなど、いろいろ紹介していくだけでも楽しかったですね。それに志賀さんのような職人さんに会って、その姿を伝えていくことも楽しかった。でも、ある時、見知らぬパン屋さんから一通のメールをもらったんです」
そのメールには、苦悩するパン職人の姿が書かれていた。
「いまのパン業界が作っているものはより多くの人に消費してもらうための嗜好品にすぎません。嗜好品はいつかは飽きられてしまいます。そしてパン屋は飽きられないために毎日、新商品開発という不毛の努力を重ねているのだと思ってもいます。私も自分の店では、なるべく食事に使えるものを主体に作っているつもりではおりますが、商売となるとそれだけに頼ることは難しくなります」(原文ママ)
このメールを読んだ清水さんは大きなショックを受けた。もともとパン職人の多くが、労働時間が長く寝る間も削ってパンを焼いていることは知っていた。そのうえ、パンを焼くこと以外のことでなぜ悩まなくてはいけないんだろう、と。
「バゲットやカンパーニュのような食事パンは、そのまま食べるのではなく何かを添えたり合わせたりすることが必要です。惣菜パンや菓子パンは買ってそのまますぐ食べられる。早くて簡単で安いファストフード的なものが売れる世の中なんです。もちろん、選択肢としてファストフード的なパンがあってもいい。でも、それだけになってしまっては、日本のパン文化はどうなってしまうのだろうと思ったんです」
ひと手間でパンがごちそうに変わる提案を
ファストフード的なパンを作るには、大手企業のほうが商品開発やコスト削減に力を入れられ、小さなパン屋さんでは不利だ。このままいくと町のパン屋さんがどんどんなくなり、一部の有名なベーカリーと大手企業しか生き残らなくなってしまう。純粋にパンを焼きたいと思っている本物の職人さんが誇りをもって仕事していく場がなくなってしまう。
こうした現状に危機を感じた清水さんは、食事パンの食べ方を積極的に提案していこうと決心する。ほんのひと手間でシンプルなパンがごちそうに変わる、そんなレシピをガイド記事や著書「日々のパン手帖」で伝えていった。
「私は、自分でスライスして何かと合わせて食べるパンというのは、パン本来の姿で素敵だと思うんです。だから凝ったサンドウィッチを作りましょうというのではなくて、野菜やお肉をパンにちょっとのせて食べるだけでも美味しいんですよということを伝えたかった。そして、多くの人が日常的に、パンに自分の好きな食材をのせたり添えたりして食べるようになれば、パン屋さんは美味しいパンの生地を作ることだけに集中できる。そんな世の中になったら、日本のパンの文化、そして食文化はもっと豊かになると思うんです」
最近では、カフェを併設してパンの食べ方を提案するベーカリーも増えてきているという。そうしたお店も積極的に紹介していきたいと清水さんは話す
こうした現状に危機を感じた清水さんは、食事パンの食べ方を積極的に提案していこうと決心する。ほんのひと手間でシンプルなパンがごちそうに変わる、そんなレシピをガイド記事や著書「日々のパン手帖」で伝えていった。
「私は、自分でスライスして何かと合わせて食べるパンというのは、パン本来の姿で素敵だと思うんです。だから凝ったサンドウィッチを作りましょうというのではなくて、野菜やお肉をパンにちょっとのせて食べるだけでも美味しいんですよということを伝えたかった。そして、多くの人が日常的に、パンに自分の好きな食材をのせたり添えたりして食べるようになれば、パン屋さんは美味しいパンの生地を作ることだけに集中できる。そんな世の中になったら、日本のパンの文化、そして食文化はもっと豊かになると思うんです」
最近では、カフェを併設してパンの食べ方を提案するベーカリーも増えてきているという。そうしたお店も積極的に紹介していきたいと清水さんは話す
清水さんの著書「おいしいパン屋さんのつくりかた」(右)と「日々のパン手帖」(左) |
パンから広がるものって面白い
志賀シェフをはじめとしたパン職人さんたちとの出会い、苦悩するパン屋さんからのメールなど、日本におけるパン業界や食文化の現状を知っていくうちに、清水さんの意識や活動が変化していった。
「パンはお米の代わりにはならないと思うんです。やはり日本人はお米の文化ですから。でも、今日はパンでいいや、という簡易食でなく、クリスマスだからバゲットにしようというように特別食でもない、肉や魚や野菜のように、パンが日常的な食材の一つとして存在するようになればいいなと思っています。そのためにこれからもパンの美味しさやその裏側、職人さんの姿や想いを通して、パンのもっている豊かさを伝えていきたい。そして、“速く安く簡単に”というこの世の中に逆行するようなパンを焼いている職人さんたちをサポートしていきたい」
パンのもっている豊かさを伝えること、それには難しさもあると清水さんは話す。
「TVなどでは“焼き立ての湯気の立つパンが美味しい”と見せる映像が流れます。でもそれは違うんです。熱々ではパンの本当の香りや味がわかりません。彩の華やかな菓子パンや凝ったお惣菜パンが話題になります。私が最も伝えたいパンは皮が茶色くて、素朴で、地味です。パン本来の美味しさや豊かさをどう表現していくか、これは私の課題でもあります」
最後に「清水さんにとって、パンというテーマとは?」と聞くと、次のように答えてくれた。
「“パンと何かいいもの”というのが私のテーマです。何かいいものというのは、パンと合わせて食べる他の食材であったり職人さんのことだったり、パンにつながっているもの全て。パンは、たった二文字の言葉なのに、人によって思いが違い、広がりがあって面白い。“パン”というテーマに出合えて本当によかったと思っています」
「パンはお米の代わりにはならないと思うんです。やはり日本人はお米の文化ですから。でも、今日はパンでいいや、という簡易食でなく、クリスマスだからバゲットにしようというように特別食でもない、肉や魚や野菜のように、パンが日常的な食材の一つとして存在するようになればいいなと思っています。そのためにこれからもパンの美味しさやその裏側、職人さんの姿や想いを通して、パンのもっている豊かさを伝えていきたい。そして、“速く安く簡単に”というこの世の中に逆行するようなパンを焼いている職人さんたちをサポートしていきたい」
パンのもっている豊かさを伝えること、それには難しさもあると清水さんは話す。
「TVなどでは“焼き立ての湯気の立つパンが美味しい”と見せる映像が流れます。でもそれは違うんです。熱々ではパンの本当の香りや味がわかりません。彩の華やかな菓子パンや凝ったお惣菜パンが話題になります。私が最も伝えたいパンは皮が茶色くて、素朴で、地味です。パン本来の美味しさや豊かさをどう表現していくか、これは私の課題でもあります」
最後に「清水さんにとって、パンというテーマとは?」と聞くと、次のように答えてくれた。
「“パンと何かいいもの”というのが私のテーマです。何かいいものというのは、パンと合わせて食べる他の食材であったり職人さんのことだったり、パンにつながっているもの全て。パンは、たった二文字の言葉なのに、人によって思いが違い、広がりがあって面白い。“パン”というテーマに出合えて本当によかったと思っています」
吉祥寺のローズベーカリーにて開催されたローズさん来日記念のお茶会でMCを務める清水さん。このお店は食事パンが楽しめるカフェを併設している。 |
文/藤原ゆみ 写真/金田邦男
※本記事の内容は取材時点(2012年7月)の情報です。
※本記事の内容は取材時点(2012年7月)の情報です。
Back Number
Rankingランキング
- MONTH
- WEEK