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女性にこそ、楽しんでほしい。 じっくり味わうモノ創りと 上質な趣味の世界「盆栽」【盆栽ガイド 山田 香織】

盆栽といえば「おじいちゃんの趣味」?いえいえ、今や「盆栽」は、おしゃれでかわいくて上質なものを好む女性達をとりこにする趣味になりつつある。そのブームの火付け役ともいうべきなのが「盆栽ガイド」の山田さんだ。盆栽の魅力をもっと女性や若年層にも広げようと活動をしている山田さんに、その魅力と原点を伺った。

All About【盆栽ガイド 山田 香織】

山田 香織(やまだ かおり) 盆栽家。盆栽園の五代目として、幼い頃から跡取りとして盆栽の指導を受ける。女性や若い世代にも盆栽を広めるべく、彩花盆栽教室を設立・主宰。テレビや雑誌等にも多数出演し、精力的に活動している。

盆栽の街に生きる

埼玉県大宮からほど近いJR土呂駅に降り立ち、「盆栽清香園」を目指す。このあたりの住所は「盆栽町」。道沿いに「盆栽レストラン」、「盆栽美術館」、住宅街のそこかしこには盆栽が飾られ、一種独特の雰囲気を持つ街だ。

聞けば、江戸時代から江戸の街に住んていた盆栽職人たちは、関東大震災を機にこの地に移住したそうだ。そのとき移住した職人たちの中に、山田さんのご先祖はいる。

山田さんは、盆栽町に居を構える「盆栽清香園」5代目なのだ。

今や「盆栽清香園」の後継者として、また数少ない女性盆栽士として活躍中の山田さんは、小さい頃から盆栽園の跡取りとして期待され、帝王学を学んできた。しかし進路に悩みがなかったわけではない。

「中学から大学4年までの10年間は、自分にはこの道しかないのかと悩みました」という山田さん。両親や周りからの無言のプレッシャー、自分には他にもできることがあるのではないかという焦りなどから、さまざまな職種に就職活動をしたところ、ある会社から内定を得ることができた。

そのときようやく自分自身とじっくり向き合い「この会社と、清香園とどちらがより自分を活かし、自分は社会に貢献できるのか」と真剣に考えたという。環境、経験、適性、使命感、やりがい。将来の自分のイメージまで丹念に検証し、ようやく出した答えは
「自分は盆栽のナビゲーターとして、もっと盆栽人口の裾野を広げていくことを使命として、コツコツとやりがいを持っていこう」だった。

「盆栽清香園」を継ぐと決心してからの山田さんに、もう迷いはなかった。


もともと盆栽は男社会。女性でありながら清香園の家業を継いだ山田さんは、女性である弱みを強みに変えて、盆栽ファンを増やしている


家業を継いだ年から世話をしている山田さんの宝物「心友(しんゆう)」という銘のヒメシャラの盆栽。次男を産んだ年には初めて2輪の花をつけた。「『この人、わかってくれているのね』という気持ちでした」

なぜ盆栽の世界は、男性のものなのか

「実は盆栽の世界は男性社会なんです」と山田さん。盆栽の世話は、大きな鉢をひんぱんに移動したり、夏の日差しの強いでも外で仕事をしなければならない。男性の力が不可欠で、盆栽の業界に女性はほとんどいなかった。そのために、盆栽の世界そのものに「女性の視点」が欠けてしまったのではないかと山田さんは言う。

山田さんは跡を継いでからというもの、次々と斬新なアイデアを出して盆栽ファンの裾野を広げる活動を広げている。それは「女性である弱み」を「女性である強み」に変換できないかと考えたからでもあった。

なぜ、盆栽はこんなに楽しくてすてきなのに、「おじいちゃんの趣味」的なイメージなのだろう。
なぜ「盆栽」はこんなに値段が高いのだろう。
なぜ生花教室はたくさんあるのに、女性向けの盆栽教室はないのだろう。

女性の視点から感じる「なぜ?」をひとつずつ具体的なアイデアに変えていく。

「もっと気軽に参加できる盆栽教室を作ってみては」
「通信教育で盆栽を教える教材があってもいい」
「女性はかわいいものやきれいなものが大好きなのだから、鉢にもこだわってきれいなものを出してみてはどうかしら?」
「小さくてもかわいらしい花が咲く盆栽は、女性にも受け入れられるのでは?」
「基本の植え付けと剪定のコツを教えれば、誰でも教室に来やすいはず」

そんなアイデアをもとに山田さんは今、彩花盆栽教室を主宰し、おしゃれでかわいい盆栽を楽しむ人を増やしている。(当初はかわいらしい盆栽を好む女性も2~3年たつと古風な盆栽の世界にも惹かれていくそうだ)

さらに若年層にも広めるために、母校の小学校で5年生に盆栽を教えている。このボランティア活動はすでに始めて10年になり、一期生の子どもたちは、来年成人式を迎える。


かわいらしい花をたくさん咲かせる盆栽。初心者向けクラスでつぼみの多い鉢を渡し、植え付け方法を教えるのですぐ花を楽しめる。剪定の時期とやり方を間違えなければ、2年目でもきちんと咲く

ユーザーからガイドへ

山田さんは、2000年になる前にAll Aboutガイドに応募したことがある。当時のAll Aboutは「一分野一ガイド制」。その時は結果的には縁がなかったものの、その道のトップの専門家がきちんとした知見をもとに情報を発信するというAll Aboutは、ネットの付加価値を最大限に高める会社だと山田さんは感じた。

その後結婚、妊娠、出産と続き新しい環境でなにかにつけ調べごとをするときに役立ったのはAll Aboutだった。「All Aboutから得た信頼のおけるアドバイスを実生活に生かすというのがとても便利で、本当にたよりになる存在でした」

ユーザーとして関わって数年たった2013年のこと、All Aboutから声がかかり「盆栽」ガイドとしてデビューすることとなった。

数年の間に「盆栽師」としての実力も上がっていた山田さんは「自分がお世話になったように、誰かの役に立てれば。一人でも多くの人に盆栽の世界に興味をもってもらいたい」という思いで、満を持してガイドを引き受ける。

記事を書く際には、できるだけ画像を多く使う。「盆栽は立体物なので、口や文章だけで説明してもなかなかわかりにくい。ひとつひとつ木の形から枝ぶりまで違いますから、画像を多くして、ていねいに伝えたいと思っています。『手間はかかっても、まるでペットのように長い付き合いができる盆栽の世界に一歩踏み出してみて』と伝えたいですね」


盆栽の手入れのための道具。根や太い枝を切るはさみ、細い枝を切るはさみ、針金を切るはさみ、針金をねじるためのやっとこ。土をならすコテ、掃除用のシュロなど用途によって様々

盆栽は世界観を表現する

盆栽の魅力を伺うと
「語りつくせぬほどその魅力はありますが」と前置きをした上で、山田さんは盆栽の3つの魅力をあげてくれた。
まず、その「世界観」。
「鉢植えの花は、植物体そのものの美しさを愛でますが、盆栽はその世界観を楽しみます。
たとえば、この盆栽は」と手元の松を指さした。
「峠の東海道の見返りの松を表現しているといえば、左下に街道が見えて、遠くに富士山が見えて、道行く人が歩いている風景が浮かぶでしょう?」

なるほど、指差す盆栽を眺めると、その後ろにしぶきを上げる太平洋の波しぶき。そこにたたずむ旅人の姿。空には悠然と飛び回る鳥の姿が、一挙に目に浮かんだ。それはそこにいた全員が「あっ!」と声をあげるほどの感覚だった。
「みなさん一挙に風景が思い浮かぶのは、日本人として共通の原風景を知っているから。盆栽は、日本人であるという精神的なつながりを感じさせてくれますね」

次にあげたのは「季節感」。

「実は盆栽は、季節を感じることができるんですよ。枯れ木のような木から芽が出て、花が咲き、咲き終われば葉が出て秋になれば紅葉して散る。その季節のめぐりを、こんな小さな鉢がみせてくれるのです。育てていると、たった一輪の花が咲いたことにも感動できますよ」

そして3つ目は「俯瞰する視点」だという。
盆栽清香園では、長寿の盆栽は、樹齢200~300年ほどのものも少なくない。

「200年、300年と世の中の人の愚かさや幸せを見つめてきた木の前に佇めば、自分の小さな悩みは実に小さなことだと思えます。あれこれ悩むことは多いけれども、まだまだできなくて当たり前。それが随分心を楽にしてくれました。木は自分を謙虚にしてくれます」
そんな盆栽の魅力を、ぜひたくさんの人に味わってほしいと山田さんは感じている。


「盆栽そのものだけではなく、風景まで見せてしまうところが盆栽のすばらしいところです」

盆栽を育て、盆栽に育てられる

「若い女性が『最近ハマっているのは盆栽』と言ったときに『いいね、かっこいいね。おとなだね』『上質な趣味ですね』と相手に言ってもらえるようなジャンルにしたいんです」と山田さん。

「すでにブームは来ているのでは?」と問うと「いえまだまだ。やっと土の中に水が染み込んできたような感触でしょうか」と、笑顔で答えてくれた。

物事が達成するには、途方もなく時間がかかる。けれどもコツコツと努力を続けることで必ず目標は達することができるということを、山田さんは盆栽から学んでよく知っているようだ。


著書では、盆栽のテクニックだけではなく、盆栽から学ぶ人生観まで伝える
文/宗像陽子 写真/須藤明子
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