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照明に関する正しい情報を理解し、 豊かな生活を送って欲しい【照明ガイド 中島 龍興】

照明のスペシャリスト中島さん。こと照明のこととなれば、昨今の話題LEDから家の中の照明の仕方について、はたまた光が健康に及ぼす影響まで、照明に関する知見の幅広さには、右に出るものはいないだろう。なぜ照明の道に入ったのか。その原点とは?

All About【照明ガイド 中島 龍興】

中島 龍興(なかじま たつおき) 数々の受賞歴を持つ照明デザインのプロが、賢い照明器具の選び方、活用法などを伝授!

高度成長期に乗って

ロマンスグレーのすてきな中島さんは、気さくになんでも教えてくれるダンディーなおじさまであった。
照明のことならなんでも知っている「照明の生き字引」のような中島さん。どんな経緯で照明の専門家になったのか聞いてみると
「いやあ、成り行きでね。ここまできちゃったんですよ」と、頭をかく。
大学では第4志望で入った学科が、その頃新しい学問である光学工科だった。

就職のときも、いくつか会社を受けたものの受かったところが照明関係の会社「YAMAGIWA」だった。自分では気づかぬままに、照明の神様に導かれた人生らしい。「YAMAGIWA」で長年働いたことが、照明のプロとしての中島さんの原点となったことは間違いない。

照明デザイナーは科学と芸術を扱う創造的な仕事

1968年、「YAMAGIWA」の新入社員中島さんは、売り場でランプを売っていた。
当時の「YAMAGIWA」の光源売り場には、一般照明用から珍しいランプまで2000種類くらいの光源がそろっていた。

「YAMAGIWA」は、照明器具を「家電」的な扱いとしてではなく「インテリアを生かせるような照明」として売ることで売上を伸ばしていたが、時は高度成長期。蛍光灯が世の中を席巻し、「明るくて電気代も安い蛍光灯」が市場にあふれ出す。インテリアの一部とする芸術的な照明というよりは、「明るいのが善」という認識が作られた時代でもあった。

売り場で1~2年働くうちに中島さんは工学的な技術を期待され、売り場から照明開発室に移ることとなる。そこで、照明デザイナーとともに仕事をするうちに、照明デザインそのものに興味を持つようになっていく。

照明のデザインというのは、器具の外観的な要素ばかりではない。明るさの緻密な計算はもとより、照明器具を見せずに建築の中にどう光を取り込むか、どう雰囲気を出すかで、全く違った風景を出現させるクリエイティブで芸術的な面がある。
大学で照明に関する科学的な知識を蓄えた中島さんだったが、「YAMAGIWA」ではさらに照明の芸術的な側面を知ったというわけだ。

「照明は芸術と科学を扱う創造的な光の仕事」と理解をしたときに、中島さんにとって照明は「一生追求すべき仕事」となっていった。



国宝白水阿弥陀堂のライトアップでは、お堂前までのアプローチに露地行灯風の特注器具


露地行灯風器具が阿弥陀堂参詣への誘導効果を高める

あらゆる角度から照明を研究する

さて、中島さんは、「YAMAGIWA」に20年勤めた後、独立。そして1998年に現在の中島龍興照明デザイン研究所を設立する。日本の照明デザイナーの第1人者として大きな仕事をいくつもこなし、今や50年近く照明の世界に身を置く重鎮となっている。

中島龍興照明デザイン研究所: http://www.ne.jp/asahi/nakajima/lighting/index.html

All Aboutガイドは、知人のガイドさんからの紹介で2003年から始めた。記事を読むとわかるが、照明に関して、驚く程知見の幅が広い。

古くは行灯、新しくはLED。
遠くはオーロラ、近くは部屋の照明。
小さな手元の照明から街の景観を左右するライトアップに至るまで、
知見は幅広く、知識欲は旺盛だ。

問えば「照明のプロは、住宅や店舗の照明はもちろん、病院の仕事や橋のライトアップ、庭園、公園の仕事。なんでもするんですよ」との答え。

庭園の照明を請け負う仕事であれば、どの植物にどれだけの光を与えて枯れないかということを調べる必要がある。橋のライトアップであれば、照明することで明るいところを目指して魚が集まり、そのことで川や海の生態系が変わってしまう可能性もある。

照明は多岐に渡って影響を与えるため、その責任は重く、一つの仕事をやり遂げるまでにかなりの勉強が必要となる。

「必然的にこと照明に関する知識は増えますね」。けれどもそれは中島さんにとって苦痛ではない。「最終的には、その光が『人』に対してどういう影響をもたらすのかを考える。すべてが勉強であり、それは大変なことだけれど面白いんです。いろんなことに興味を持つ人にとっては面白い仕事ですよ」と語る。


「デザイナーとともに仕事をするうちに、興味は芸術的なことに向いてきましてね。照明には科学と芸術の両面をカバーできる魅力がありました」


調査のたびに持ち歩く商売道具。左から放射温度計。分光計。照度計。輝度計。


著作の数々。海外での仕事もあり、台湾語での本の出版も

照明に関する誤解を解き、照明で生活が豊かになることを伝えたい

さて、読者のみなさんは小さい頃「暗い部屋で本を読んじゃだめ」と言われて、部屋全体を煌々と明るく照らされていなかっただろうか?
高度成長期に「明るいことはいいことだ」と言われて育った我々(もしくはその子どもたち)は、今でも部屋のすみずみまで明るくすることをよしとしてしまう傾向がある。
中島さんは、「それは誤解です」という。目の健康のために必要なことは、部屋の隅のゴミ箱まで明るく照らし出すことではない。明るすぎる部屋は、時に目を疲れさせる。

「夜になれば部屋全般の照度を落とし、必要な部分だけを必要な明るさで照らすことが大切なんです」と中島さん。ことほど左様に照明に関する世の中一般に信じられている誤解は多いという。

すでに半世紀も照明に関わってきた中島さんは、今後はその経験を活かして、照明についての正しい情報を理解してもらえるような活動をしていきたいと考えている。All Aboutでの情報発信もそのひとつだ。

All Aboutの記事で目指していることは3つ。それは
「一般の生活者に少しでも照明で生活が豊かになることを知ってもらう。照明に関する誤解を解く。目に見えない光も含めて、光の効果やその奥行きの深さを知ってもらう」ことだという。

「真面目すぎる記事は読んでもらえない。かと言って、小さなことを大げさにとりあげて面白おかしく書きたくないしなあ」。

誠実な中島さんはそんなジレンマを抱えながらも、美しい写真やわかりやすい説明を入れて、なるべく多くの人に記事を読んでもらうよう努力している。それはひとえに、照明の間違った情報を正し、使い方ひとつで心豊かに癒される照明生活を送って欲しいという願いからに他ならない。


会議室。全般照明用の蛍光ランプ天井灯を点灯


天井の蛍光灯を消し、目線より下に間接照明用器具を2灯点灯。同じ部屋とは思えないほど、一瞬で雰囲気がガラリと変わった


赤い提灯が印象的な京都伏見稲荷大社の宵宮祭

美しい光を求めて

今、中島さんがワクワクすることは「観光」だという。ただし、一般の人が言う意味の「観光」とは少しちがった。
中島さんにとっての「観光」とは「光を観る」こと。
最近では京都・伏見稲荷の連なる赤い鳥居と赤い提灯の灯りに心を動かされたそうだ。
外国に行けばヨーロッパの街並みの暗がりに浮かぶ明かりやクリスマスイルミネーションのかすかな窓辺の明かりなどに癒される。
「数や機能で競う照明ではなく、質素だけれども心を豊かにする光というものがあります。それはなつかしい光かもしれないし、新しく生まれてくる光かもしれませんが、感動する光をいつまでも見てみたいですね」と言う中島さんは、いつまでもどこまでも骨の髄まで照明のプロなのだった。
文/宗像陽子 写真/須藤明子
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