専門家

大人も、街も、企業も。 赤ちゃんを笑顔で迎えられる社会にしていきたい【妊娠・出産ガイド 大葉 ナナコ】

「誕生学(R)」という新しいジャンルの言葉をうみだし、バースコーディネーターという仕事を創職。新しい命に向きあう女性やカップルをサポートし、幅広い年齢層に誕生学を伝え続けて18年。多くの人の心に響く講座はなぜ生まれたのか。

All About【妊娠・出産ガイド 大葉 ナナコ】

大葉 ナナコ(おおば ななこ) 趣味は出産、特技は安産。バースコーディネーターとして、プレママ・ママのメンタルサポートやライフスキル、妊娠準備、出産準備、楽しい育児のコツを発信する。「誕生学(R)」という、生まれてきた自分のいのちの力を知り、自己肯定感を高めるプログラムも主催。

たおやかにして男前

やさしく強いというイメージの「たおやかな」と言う表現が大葉さんにはよく似合う。長身で背筋はスッと伸びていて笑顔を絶やさない。女らしいのだが、話を聞けば聞くほどパワフルでパイオニア精神に満ちあふれ、「男気」たっぷり。そのギャップが彼女をより魅力的に感じさせる。

「人は、6,000回生まれ変わるって説があるのよ。それでいくと多分私は5,999回男で生まれて、『一度くらいは女になって、出産ってしてみたいぜ!!』と、今回は女性に生まれた気がするの(笑)。男っぽいけれど、出産だけなら何度でもしてみたい。それくらいお産が好きなんですよ」といたずらっぽく笑う。

その優雅な姿からはにわかには信じがたいが、5児の母親である。

中学校からの女子校育ち。
「その頃から活発で、常に役割はプロデューサーです。いつも文化祭委員長を買って出るような女の子でした。お産もそうですが、ゼロから1を生むことが大好き」という大葉さん。自由奔放な大葉さんの原型を形作ったのはお母様だ。

「何でも『おもしろいじゃない。やってみなさい。あのビルだって、最初に作った人がいるのよ』」と窓から見えるビルを指してはいつも大葉さんのチャレンジを応援し、励ましてくれた。


「ゼロから新しいことを生み出すことが好き」サラリと言ってのけ、次から次へとアイデアをだし、実現させる

妊娠前からのバースレッスンを提供したい

さて、出版社で広告デザイナーをしていたという大葉さん。

第1子の妊娠中に夫婦で「お産の学校」主催のマタニティクラスに参加し、カップルで妊娠出産について学び、感動したことが、その後の人生を変えるきっかけとなる。1995年、すでに3人の子どもの親となっていた大葉さんは、出産準備クラスのバース・エデュケーターとなるべく、研修を受ける。バース・エデュケーターとは1970年代に呼吸法など出産時のセルフヘルプを伝えるために英国で生まれた。大葉さんは、国内でのバース・エデュケーター第1期生となり、単に分娩の方法ではなく、出産にまつわる様々な知識やサポートについて学ぶこととなる。

「そこで、『子どもを生むということはどういうことなのか。パートナーシップとは何か?』ということを学びました」と大葉さん。
「人生において、我が子と出会うプラン」という考え方が、とても新鮮に感じられたという。

多くのカップルは妊娠してからいきなり「親になる」という未知の世界に対峙する。自分の人生において「子どもをもつとは」「妊娠するということは」を考えるのはもっと早くてもいい、考える時間はたっぷりあってもいい。
そんな思いは大葉さんの中で次第に強くなっていく。

しかし、行政でも民間でもマタニティクラスは、どれも妊娠してからのもので、お世話のコツや沐浴指導がメイン。雑誌の妊娠準備特集といえばグッズの宣伝ばかり。もっとマインドを教えたい。もっと妊娠前から教えたい。

そういった場を作るために、ついに大葉さんは「幸せなお産を増やすための人材育成プログラム・教材の開発を行うバースセンス研究所」を立ち上げる。

記念すべきバースセンスレッスン初回は1997年のこと。
「忘れもしない参加者はただひとりだったの」と軽やかに笑う大葉さん。けれどもその後18年、地道に活動を続けることで、今や認定バースコーディネーターは25名。誕生学(R)を教える講師は470名まで増え、講座を受けた人は、のべ1万人は軽く超えるという。


2001年第5子を産んだあとから、書籍出版の依頼が増え、すでに著作は20冊を超える。写真は「安産バイブル」(左)と「BIRTH」


代々木上原駅のほど近くにバースセンス研究所はある

メイクベビーで緊張せずに。ナチュラルなメイクラブを。

「陣痛の時に分泌するホルモンは、オキシトシン。“愛情ホルモン”というニックネームがあるホルモンです。夫婦で愛し合う時も分泌するホルモンなんですよ。愛し合う時のようにリラックスすればするほど、お産も進みます」

人気のマタニティクラスでは、日常のセクシャルな場面もホルモンで解説される。そんな講義が楽しくないわけはなく、受講者たちは出産に前向きな気持ちになって、出産日を迎え、さらには長い自分の人生の中で妊娠・出産を位置付けることができるようになる。

さらに、受講者は妊娠前後の女性やカップルだけにとどまらない。

もちろん年齢やその人の状態により講義内容、表現の仕方は変えながら、「誕生学(R)」と大葉さんが名づけた命の学習プログラムは、小中高生への出前授業でも人気を博し、保護者やシニアにも受け入れられていく


ポジティブな情報がインストールされることで、妊娠・出産に対するイメージが肯定されていく楽しい講義だ


誕生学(R)プログラムの教材。左からお米(米一粒が妊娠がわかったころの胎児の大きさとほぼ同じ)、骨盤の模型、赤ちゃん(何体もあるがそれぞれ顔が違うとか。撮影用にお気に入りの子を持参)胎盤付き

ゆるしあい、ゆるみあう

長く活動を続けてきて、1万人を超える女性と触れ合ってきて、大葉さんはどのような変化を感じているだろうか。伺ってみた。

「『仕事の都合で、今、妊娠したいんです』なんていう人が増えましたね」と大葉さん。

「仕事は、より効率化を求めてこそマネジメントできたということになりますが、『出会う』、『恋愛』、『妊娠する』、『子育てする』、すべては予定不調和なんです。つまり仕事と妊娠出産、子育ては対極にあるもの。予定不調和を受け入れる土壌ができていないと、子育てはつらくなる。この18年とは、予定不調和を受けいれらない男女が増え、ナチュラルなメイクラブが難しくなった18年といえるかもしれません」

2005年からは、All Aboutから依頼を受けて「妊娠・出産ガイド」を始める。「All Aboutの記事、読みましたよ」と声をかけられることも多く、読者の多さを痛感している。

だからこそ大葉さんは、記事を通してキャリアウーマンたちにメッセージを送る。

「子どもが大人になるまでは四半世紀かかる大プロジェクト。親になるということは、『受容すること』。そのためにはまず自分を『受容』しなくちゃ。予定通りにならないことを認めて、ゆるして、ゆったりと心をゆるめましょう。妊娠できないと焦っている人も、まずはそこからですよ」


「すべての始まりは、ゆるむことからですよ」。心を包み込んでくれるようなやさしい言葉だ

子育てにやさしい街・企業・マネージャーを作ろう

さて、今後はどのように活動を展開していくのか伺ったところ、パワフルな大葉さんは、にっこり笑って次の手を教えてくれた。2014年8月に立ち上げた一般財団法人Baby Birth Friendly Foundation(BBFF)の活動がそれだ。命の誕生にやさしい企業や街を増やしたいというのが、BBFFの目的。

「たとえば、職場での妊娠の報告に『え~!今?』と抵抗感を示されるばかりでは女性だって生みたくなくなるでしょう。赤ちゃんが生まれることに理解のある上司が多ければ、その企業は赤ちゃんにやさしい企業といえますよね。また、育休中にいつでもフラッと寄れるような親子カフェがたくさんある街もいい。そんな街や企業を増やしたいんです」

そのためにできることをやる。たとえば「赤ちゃんにやさしい街・企業認定10か条」のようなものを作り、認定される街や企業を増やしてはどうだろうと、大葉さんは、熱く語る。アイデアは尽きることがない。

今日本は超高齢化・超少子化への傾斜が続いている。日本は世界に先駆けて、超高齢化・超少子化社会の理想モデルを打ち出していく必要がある、と大葉さんは感じている。必要なことは「街も企業も笑顔で赤ちゃんを迎えることができる社会」をみなで作っていくことではないか。

「生まれる赤ちゃんも笑顔。赤ちゃんを迎える大人も笑顔。そんな社会を作りたいのです」
大葉さんには、シンプルなゴールとそこに向かう道がはっきりと見えているようだ。


2015年発売をめざし、海外の専門家と協働開発中のお茶。授乳ブレンド、妊活ブレンドなど。デザイン性にもこだわった
文/宗像陽子 写真/平林直己
※本記事の内容は取材時点(2014年10月)の情報です。
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