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ファッションに自分を合わせるのではなく、生活の中で無理のないおしゃれを提案したい【レディースファッションガイド 久野 梨沙】

流行に振り回されない、自分らしいおしゃれとは何だろう。おしゃれは、決まりきった型があるわけではない。一人ひとりに心地よいおしゃれを提案する久野さんに「おしゃれ」とは何か「ファッション」とは何かを聞いた

All About【レディースファッションガイド 久野 梨沙】

久野 梨沙(ひさの りさ) 服装心理学に基づくスタイリングの第一人者。大学で認知心理学・色彩心理学を研究した後、大手アパレルメーカーでの商品企画職を経て個人向けスタイリストに。現在は、色彩心理を活かした印象コントロールや外見コンプレックスの解消、服装でのモチベーション向上など、ファッションと心理を絡めた情報発信に定評がある。

モノだけ市場に送りこんでもマーケットは広がらない

服装心理学に基づいた個人向けスタイリングを行うスタイリスト久野さんは、大学卒業後アパレル業界に身を置いていた。ターゲットに向けてブランドを立ち上げ、売っていくという仕事にやりがいがなかったわけではない。昔から仮説をたてて分析をするのが得意だったからだ。

ターゲットを決め、企画立案し、目標値を定め、売り上げを伸ばしたが、次第に違和感を感じるようになった。世の中は不景気で倒産が相次ぎ、安定とは程遠い社会情勢の中、モノだけどんどん作って送りこんでもマーケットは広がらないと焦りを感じていた。

おしゃれに一家言あり、自信のある人がアパレル業界を牽引している。それは一般的な消費者とのずれがあるのではないか。そのもやもやとした疑問がひとつ明確になったのは、消費者一人ひとりの生活を追っていくマーケティングを行ったときのことだった。ごく普通の人々は、どういう生活をし、どういうときにどういう服を着ているのか、何を着たいのかを時間をかけて追っていった。その結果「一人ひとりは、おしゃれもしたいし買いたいものもある。ただ何を買っていいのかわからないでいる」と感じた。

人を見ずにモノだけどんどん送っても、ブランドのつぶし合いになるだけでマーケットは広がらない。かえってお客さんを混乱させているだけではないかという想いは広がる一方だった。

小さいときから人間観察が好きで、大学では心理学を学んでいた久野さんは「モノ」より「人」に興味があった。「もっとおしゃれを楽しむ層そのものを広げることはできないか。ものづくりに軸足を置くのではなく、消費者側にたってアパレル業界との橋渡しをしたい」と考えるようになっていった。

「私は、ファッションが好きというよりは、人間が好きなんです。ファッションが一番とは思わない。あくまでも着こなす人間がいてこそのファッションです」

その気持ちが、久野さんの原点だ。それは起業して8年たっても変わることはない。



パーソナルスタイリング風景。直接お客様と話しながら、似合う服装を探していく作業は楽しい。

流れに乗って、高いハードルを越えていく

流れに乗って、高いハードルを越えていく
起業当初は、メーカーに勤めながら週末のみの個人向けスタイリスト。本名も出さずに、リスクを冒さずできる範囲での起業だった。しかし、口コミなどを通じて徐々にその活動は広がっていき、2006年退職をして独立することとなる。

それまでは何かひとつ決めたら変えずに貫くタイプだったが、会社を立ち上げてからは、柔軟に流れに乗ることの大切さを知ったという。

久野さんは起業してから、広告を出したことが一度もない。ライター、トークイベント、みだしなみ研修と、スタイリング以外のものはすべて他から声をかけられ始めたもの。「そんなことハードルが高くて無理」と思うようなことも意外とやってみるとおもしろかったり、ほかの仕事につながったりすることに気が付いた。高いハードルを越えることで、自分自身が成長することを実感してからは、大きな流れには逆らわず、乗ってみることを心がけている。

All About の「ファッション」ガイドも声をかけられて始めたものの一つ。媒体ターゲットにしか届かない他メディアと違い、All Aboutは一般の人のみならず、マスメディアやアパレル業界の人間も記事を読む。そこで仕事が広がっていくこともあれば、アパレル業界に対し「一般消費者は、こんな情報を求めている」という情報提供の場でもあると感じている。


トークショーは、みだしなみ研修や講演会の仕事へとつながっていった

がんばらないおしゃれもいいじゃない

アパレル業界全体が盛り上がるためには、何が必要だろうか。「今年のトレンドはこれ!」「おしゃれはこうするべき!」とマスに向けての提案ばかりでは、人はおしゃれをいつまでも自分のものにできず、結果的におしゃれにしり込みをしてしまう。アパレル業界は、自分で自分の首を絞めているようなところがあると久野さんは指摘する。

「『おしゃれってむずかしくないんですよ』と伝えたほうがマーケットは広がるはずなんです」

おしゃれが苦手でという人こそおしゃれを好きになってほしいと考える久野さんは「人間一人ひとりやるべきことは違う。仕事、子育て、それぞれのフィールドで頑張る人たちは、それで十分魅力的できれいなんです」と言う。「でも私たちスタイリストがスタイリング提案をしてもっとおしゃれを楽しめるようになれば、さらに無敵の魅力をもてるのでは?と思っています」

では、おしゃれが苦手な人はどういうおしゃれ感が必要なのだろうか。久野さんに聞いてみると、「がんばらない。自分ができる範囲のおしゃれに気付くこと」が必要とのこと。

女性は年をとるにつれ、自分が今まで似合っていたものが似合わなくなってきたことを悲しむばかり。たとえば「昔は黒が似合っていたのに似合わなくなってしまって……」「昔はカジュアルが似合っていたのに、貧相に見えるようになってきて……」云々。

しかし、年を取ることで似合わなくなったものがあるのなら、逆に今まで似合わなかった新しいものが似合っているはず。年齢が上がれば派手な色が似合うこともある。若いころには浮いて見える高級なブランド品がしっくり似合う年頃になっているかもしれない。実は新しい世界が広がっていることに気付いてほしい。

必要なことは、「人や情報に振り回されず、自分らしさを大事にして無理をしないこと」だ。


パーソナルカラー。肌の色素によって相性のいい色が違うので、一人ひとりに似合うカラーを診断する。それは、自分らしいおしゃれを作るひとつの方法だ。

生活環境や性格から、心地よさを探る

久野さんの個人向けのスタイリングのクライアントは、男女を問わない。まずは時間をかけ、じっくり話を聞いていく。暮らしの背景から性格まで。

住んでいる地域はどこなのか。
家族構成は?
子どもはいるのか、男の子なのか女の子なのか。
仕事はなにか?制服なのか?
通勤は自転車なのか車なのか。
人より目立ちたいのか目立ちたくないのか。
周りはどういう服を着ているのか。

膨大な情報から、その人が、今おしゃれで重視すべきところが見えてくる。

それは、「トレンドが今はこうでね」という話とは全く逆の、一人ひとり違うおしゃれを丁寧に見つけ出していく作業だ。それが明確な形となったとき、その人だけの「無理のないおしゃれ」ができあがる。



「子どもがいて働いていて、という人に、毎回クリーニングしなければならない服を提案しても意味がありません」

スタイリスト育成で、すそ野を広げる

起業して8年、ようやく休みも取れるようになってきたと笑う久野さんは今、新たな挑戦に取り組んでいる。それは社団法人日本服装心理学協会の立ち上げと、スタイリスト育成スクールの運営である。

日本服装心理学協会では、服装と心理学という本来全く違うジャンルを二つつなげ、啓もう活動を行うことで新たなマーケットの拡充を狙う。スクールでは、もっと消費者に軸足を置いたスタイリストが増えてほしいという気持ちでマンツーマンで指導にあたる。

「結果的におしゃれをしたい人が増えれば、アパレル業界全体のお客様が増えるはずでしょ」とニコリ。未来への種まきは、実に地道で果てしない道だ。

「おしゃれは、まずは自分のため。自分が心地よく、それが1番です。人から見ても心地よく。それが2番。その二つに限りなく近づけるよう、私たちスタイリストがお手伝いできれば」という言葉は、ファッション下手な筆者がジーンとするほど、力強いメッセージとして、心に響いた。


「洋服を替えるだけで、落ち込んでいた気分が上がって一歩踏み出せることもある。うつ病回復期などの人に提案できることも日本服装心理学協会ではやっていきたいですね」

洋服だけに目が向く人ではなく、人の気持ちに寄り添えるスタイリストを育てたい。勤め帰りの人も学べるようなスクールで人材育成中。
文/むなかたようこ 写真/須藤明子
※本記事の内容は取材時点(2014年3月)の情報です。
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