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自分にとって必要な靴を育てるには、まず自分を知り、靴を知り、マナーを知ること【靴ガイド 飯野 高広】

飯野さんは、靴の歴史的背景、靴業界、靴の紹介から靴の手入れまですべてを知り尽くす「紳士靴の歩く辞書」のような人。手持ちの靴は160足あり、40年前の靴にも等しく愛情を注ぐ。そんな彼が持つ想いの原点とは

All About【靴ガイド 飯野 高広】

飯野 高広(いいの たかひろ) 1967年東京生まれ。大学卒業後、扱う商品も社風も大変カタい某大手メーカーに11年あまり勤務し、2002年に独立。出身がファッション業界でもマスコミ業界でもない、この世界では極めて異色の経歴を持つジャーナリスト。「身に付けていること自体が目立つモノ」ではなく、「身に付けている人を引き立たせるモノ」を良品と考えている。
飯野さんは待ち合わせのカフェにきっかり5分前に現れた。最近はあまり見かけない厚手のツイード地でできたチェックの3ピーススーツをサラリと着こなし、靴は「いかにも! 」な感じの英国・チャーチ社の鹿革のフルブローグ。かれこれ15年は履いているという。

そして、品のいいイギリス紳士のようなたたずまいで、ゆっくりとわかりやすい言葉を選びながらインタビューに答えてくれた。

似て非なるものを比較、分析するのが好き

その文章は、的確にして緻密。靴のみならず、靴にかかわるすべての人への愛と尊敬にあふれている。繊細で丁寧な記事の秘密はなんだろう。

聞けば小さいときから「似て非なるものをシリーズや系列でそろえるのが好きだった」とか。たとえばミニカーであれば、同じモデルで色違いのものを集めたり、筆記具なら同じシリーズのボールペンとシャープペンシルのセットを欲しがったり。ちょっとした違いが気になり、比較するのが好きだったようだ。そして、青春時代のころから、「流行ファッションを追いかけるのではなく、年をとっても今と同様に使える普遍性の高いもの」に興味があったという。

自分といっしょに年をとってくれる「靴」の魅力

そんな飯野さんは、なぜ「靴」に特化したのだろうか。
紳士靴に興味を持ったきっかけは、すでに亡くなっている飯野さんのお父さんにある。ライトベージュ色のスリッポンにダークブラウン色の靴クリームを塗って、古くなった靴を新たによみがえらせて、履きこなす。休日にはゴルフクラブと一緒に熱心に靴を磨く。そんな姿がまぶたの裏に焼き付いていた。

父親の姿を見て、飯野さんも中学のころから次第に自分で靴を磨くようになっていった。成長して社会人になると、いい靴を買い、手入れをして磨き、靴に更なる愛着を注いでいった。靴は常に飯野さんとともにあり、ともに人生を歩む存在だった。
会社員時代には、履いている靴や身だしなみで言葉には出さない気持ちを表現したり、立場を表すことができる「靴の力」を知った。
仕事で失敗をして謝りに行くときなど、きちんと手入れをした靴を履いていけば、もちろんその場では叱られるけれどもその後の関係がうまくいったりすることもあった。そういった経験を積み重ねるにつれ、靴が持つ「気持ちを言葉に変える力」に畏敬の気持ちを抱くようになっていった。

さらに、靴は、服やカバンと違ってお手入れで格をあげられるのが魅力だと飯野さんは言う。靴の底をレザーソールからラバーに張り替えたり、色みを少し明るくしたり、革を柔らかくしたり。時を経て次第に自分のものに育てていくおもしろさが靴にはあるのだという。それを飯野さんは「靴は、自分と一緒に年をとってくれる」と表現する。


お父さんがいつも「いざ!」というときに履いていた勝負靴。飯野さんが丁寧にケアをし続けて41年、今でもピカピカに光り輝いている。京橋イトー靴店で購入

自分の靴を育てていく

そんな靴の魅力にひかれる一方で、周りの人たちは靴の魅力や力の重要性について十分わかっていないように思えた。

靴を買うとき、「セールだから」とか「このブランドだから」といった理由で買ってはいないだろうか。どういう場面で、どの靴を履くかを意識して選んでいるだろうか。次第に飯野さんは「『このブランドだからいい靴』ではなくて、『各個人にとってのいい靴を選ぶ・いい靴にしていく』を自分で探してほしい。そのためのお手伝いをしたい」と思うようになる。

ユーザーが自分にとってのいい靴を知るためには、自分自身の足の癖だって知らなければいけないし、自分の立場、タイミングを考える必要もあるだろう。自分も年を経るにしたがってどんどん変わっていくだろう。

マニュアルを書くのではなく、靴の上っ面のかっこよさだけを書くのでもなく、「自分にとってのいい靴とは何か」を読者が考える余地を残す記事を書きたいと思うようになり、サラリーマンから、靴を含めた服飾ジャーナリストへ転身をはかることとなった。

現在はAll Aboutのほか、雑誌や単行本の執筆や服飾系専門学校の非常勤講師として、さらに、「靴」についての意見を求められたり、企画への協力依頼や取材を受けたりと忙しい毎日を送っている。


バイトでお金を貯め、新宿のリーガルショップにて最初に自分で購入した記念すべき第1号。今や飯野さんの部屋に大切に保管されている靴はなんと160足。

初心者から業界のプロまで読める「基本」の記事

「靴」ガイドになってからの飯野さんは、「靴を初めて買う人も、上級者が基本に立ち返りたいときも読める記事」を意識して記事を書いている。また、専門学校で若者たちに講義をするときも「基本・マナーを教える」ことを大切にしている。基本を知ったうえでそれを崩すのであればそれは「メッセージ」になる。けれども、基本のマナーを知らないで崩せば、単なる非常識になってしまうと考えるからだ。

靴クリームは靴を愉しむための大切な脇役。画像はメルトニアン靴クリーム。1990年代のものでお手入れの大切さを教えてくれた恩人のような存在。

世界を席巻するか?日本の靴

さて、気になる日本の靴業界について聞いてみた。2009年年末に「紳士靴、この10年を総括する」という記事を書いた飯野さんは、その後もその記事を基準に「あれから○年たったが、どうだろうか?」といったスタンスで業界を眺めているという。

「実は日本の靴業界、この5年はとてもむずかしい状況の中、いい流れも出てくるようになっています」と飯野さん。

聞けば、1990年代に職人になった人たちは、世の中が豊かになり、外国のいい靴をたっぷり見て吸収してきた世代。その世代に代替わりしてきたことで、木型もパターンも洗練されてきた。「いいものを生み出そう」という確固とした意思も感じると言う。

緻密で丁寧な手仕事を得意とする日本人にとって、靴作りは合っているとも言える。職人の差による個体差は、海外のものに比べて圧倒的に少ないという。

「いつか日本の技術が世界のトップに躍り出ることも可能なのではないでしょうか」とうれしそうに語ってくれた。

インタビューを終えて、飯野さんはまさに「日本の靴業界、そして靴のユーザーの守破離を見守り、関わっていくガイド」と感じた。まずは基本を守ること。知らないユーザーには基本を教え、上級者にはぶれない基本を思い出させる。

基本の型を知っていれば、型を破ることも可能なのだと型破りな若者たちや機動力のある小さなブランドの活躍ぶりに目を細める。そして、さらにその上を目指すのも不可能ではないと道を示す。

その上とは、日本の靴業界が進化して、イギリス、アメリカ、イタリアのそれらと対等に渡り合い、国際的な評価を高めていき、日本の靴が輸出産品として成り立っていくという「夢」だ。

どうやって、今までの職人さんの技能を継承していくか、どうやってクオリティの高い材料を調達していくか、靴業界にも問題は山積している。しかし、その日が来るまで飯野さんは東奔西走、ピシと磨き上げられた靴を履いて業界全体のレベルアップのために走り回っていることだろう。

日本の靴業界が世界トップの実力を持つようになったとき、ユーザーもまた「自分に合う靴は何か」「どうやって自分にとっていい靴にしていけるのか」を考えられる賢さを身に着けているのかもしれない。

「どうしたらもっと自分にとっていい靴になるのか自ら考えてほしいんです。そうすればもっと奥深い靴の愉しみを知ることができるはず」

エドワードグリーンの外羽根式プレーントウ。 工場売却の絡みで1990年代後半に木型と型紙をモデルチェンジしたが、これ以前の工場で作られたもの。
文/むなかたようこ 写真/平林直己
取材協力
ark-private lounge/cafe&dining-
http://www.atticroom.jp/ark/

この2本は、飯野さんの靴に対するアプローチがぶれていないか、あれから○年たってみてあの国の靴事情はどうなのかなど、その時々で検証するマーカーとしての記事になっているという意味で、大切にしたい記事。
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