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なぜ、不満の多い人生になるのか?心の中にあるカギを見つける、手助けをしたい【ストレスガイド 大美賀 直子】

多かれ少なかれ、現代人はストレスを抱えている。その正体を知り、うまく付き合う方法を教えてくれるのが「ストレス」ガイド、大美賀さんだ。もうすぐ400本という記事の積み重ねは、彼女の成長の歴史でもあった

All About【ストレスガイド 大美賀 直子】

大美賀 直子(おおみか なおこ) メンタルヘルスの分野を中心に執筆するジャーナリスト、カウンセラー。精神保健福祉士、産業カウンセラー、キャリアコンサルタントの資格を持つ。都内私立大学学生相談室カウンセラーとしても活動。現代人を悩ませるストレスに関する基礎知識と対処法を解説。ストレスやメンタルコントロールに関する著書・監修多数。

不満だらけの自分が簡単に分析された!

小学校のころまでは、友達の目を気にするシャイな性格だったという大美賀さん。友達作りに奔走し、どうやったら友達と仲良くできるだろうかといつも考えているような繊細な女の子だった。

大学を卒業し、出版社やWEB制作会社で働いた後、32歳でフリーライターとして独立。常に一生懸命働いているものの、胸の中では様々なストレスが常に渦巻いていた。
それは、心の病になるほどのものではなかったけれども「あの人の態度がイヤ」「こんな仕事くだらない」「ご飯がおいしくない」そんな小さなストレスで大美賀さんはいちいちイライラしていたという。たぶん多くの人と同じ程度のストレスだったと思うが、ほかの人と違ったのは、大美賀さんが「このままではどうも人生がおもしろくない、なんとかしたい」と考えたことだろう。どうしてこんなふうにストレスがたまるのかと調べ始めていくと、いろいろなことがわかってきた。

一番衝撃的だったことは、「物事の捉え方、考え方に独特のゆがみ(思い込みや誤解)があると、なんでもないことがストレスになってしまう」というバーンズによる「認知のゆがみ」の定義を知ったことだった。

「自分は複雑な考え方を持つ人間だと思っていたにもかかわらず、心理学の『認知のゆがみ』の定義に、あまりにも自分がピッタリとあてはまっていたことに驚きました」と大美賀さんは言う。「ストレスを溜めやすい自分の考え方のほとんどが心理学上で解明され、対策まで実践されていることを知り、目からうろこが落ちる思いでした」

「認知のゆがみ」に基づいて施される認知行動療法は、主にうつ病などの心の病を抱える人の治療に使われるもので、専門家でなければなかなか知り得ないものであった。けれども、病気でもなく、トラウマに悩んでいるわけでもない大美賀さんにとっても、ストレスとうまく付き合い、変わっていくきっかけとしてとても役立つものだった。

「ということは、ごく普通の生活をしながらまるで魚の小骨のように私たちを突き刺す小さなストレスだって、心の持ちようでうまく付き合えるということではないだろうか?」

「心理学で用いられているテクニックは、カウンセリングルームといった狭い場所だけではなく、日常生活のちょっとしたイライラ解消にも応用できるのではないだろうか?」

そう大美賀さんは考え、同じような悩みを持っている人にそれらを分かりやすく紹介する役目を担いたいと考えるようになった。フリーライターとして独立後は、たまたま健康の分野を軸足に活動を始めていたこともあり、次第にメンタルヘルスへと専門分野を特化していった。

よく働きよく食べ、夜通し遊ぶ。そんな気楽な生活なのに、ストレスとの付き合い方に頭を悩ませていたアラサー時代。

カウンセリングの勉強を通じて、自分の見方も他人の見方も変わった。「いやな気分よ さようなら」で「認知のゆがみ」について知り、衝撃を受ける。それがこの世界にのめりこむきっかけとなった。

カウンセリングを学び、自己理解・他者理解が深まる

ちょうどそのころAll Aboutで「ストレス」ガイドを募集しており応募、採用される。2002年のことである。「ストレス」ガイドになったこともきっかけとなり、カウンセリングの勉強に本腰を入れて取り組みたいと思うようになる。産業カウンセラーや精神保健福祉士の資格を取得し、資格を生かしてカウンセラー業務も始めた。カウンセリング技法である「傾聴」「認知行動療法」「アサーション」「リフレーミング」は、大美賀さんの人生を大きく変えたという。

相手の話を純粋に受容・共感して聴くこと。ゆがんだ考え方の癖に気づくこと。率直な自己表現の大切さを知ること。違う「眼鏡」をかければ、マイナスに見えるものもプラスになること。それらを体系的に学びながら、大美賀さんはかつての自分がなぜ苦しかったのか、なぜ行き詰っていたのかを知り、他者に対しても理解が深まっていった。と同時に、All Aboutの記事を書き続けることで、単行本執筆や講演、テレビ、雑誌、新聞の取材も受けるようになり、「ストレス」ガイドを通して徐々に仕事が広がっていった。

週に2回は大学の相談室で、学生を相手にカウンセリングをしている。受容し、共感しつつ、問題の本質がどこにあるのかを探っていく。

専門的な技術論を、日常の風景に重ね合わせる

All Aboutの大美賀さんの記事の多くは心理学やソーシャルワークの理論に基づいて書かれているが、それだけにとどまらない。もともとカウンセリングルームなどの狭い部屋で使われてきた概念を日常生活に応用しようというのだから、大美賀さんは、理論だけでは人は記事を読んではくれないと考えた。そこで日常生活の何気ないシーンを登場させることで、記事に臨場感をもたせている。

外出しようとしたときにフッと夫の口をついて出た言葉、同僚や友達の何気ないひとこと。チクっとした小骨の正体は何か。なぜ、人は不快感を感じるのだろうか。そこからわかることは何か。そしてどうすればいいのか。

誰でも頭の隅に感じていることを、大美賀さんは文字にして、ポンと目の前に出してくれる。その「普通のリアル感」は、大美賀さんは記事を書く上で最も大切にしていることだと言う。日常生活のワンシーンを拾い出すために、しばらくテーマを寝かしておくこともよくある。

さらにいったん記事を書いた後も推敲を重ね、納得のいく記事になるまでこだわる。表現に気を使っているのは、一般の人が読んで興味を持ってほしいことだけではなく、悩みを抱える当事者をさらに傷つけるような表現を避けるため。

「記事を書き始めたばかりのときは『こうすればいいのです』という断定的な言い方をしていましたが、今は解決策も提案にとどめています」

こんなやり方もありますけれども、いかがですか?という優しい問いかけが、読者の気持ちを温かくほぐしていく。

「テーマを決めてからは、日常生活から拾えるシーンが見つかるまでしばらく時間を置きます」

家族をベースに仕事をし、自分時間を楽しむ

徐々に自分自身の専門性を高め、仕事に広がりをもたせてきた大美賀さんは将来どのような展望を持っているのだろうか。
「別にねー。大きな展望とか、壮大な夢なんて私にはないんですよ」とにっこり。
「子どもと夫のいるささやかな家庭の小さな幸せ。そこをベースにして好きなことを仕事にでき、自分時間を楽しむこともできる。それで十分なんです」と語る。

年に何回かは、気の置けない友達と山登りを楽しむ。仕事と余暇だけではなく、今でも心理学の講座などに通い、自分を高めるための勉強も続けていく。それは、やむにやまれず追い立てられるようにやっていることではなくて、自身が提唱する「O・I・P」(Output出力・Input入力・Pastime気晴らし)のバランスが整う生活習慣が心の充実感をもたらすことを知ったからでもある。そして、「やっぱりこの分野が大好きだからでしょうね」とサラリ。

「欲を持て」、「人より抜きん出るためにどうしたらもっと効率的に仕事ができるのか」、「もっと前に進まなければ」と世の中は、次から次へと煽り立てる本や情報であふれている。そんな中で「ねばならない」「~すべき」といったがんじがらめもなく、のびのびと仕事をしている大美賀さんの姿は、かつて、スーパーウーマンを目指しながらも小さなことにもイライラし、不満をたくさんお腹に抱えていた人とは思えないほど。

取材中、大美賀さんも筆者もコロコロとよく笑った。スーパーウーマンの成功物語でもなく、逆境から苦労をして立ち上がった人の再生の話でもなく、ごく普通の女性が、腹をたてたり、揺れたり、迷ったりしながら、ひとつずつ成長していった大美賀さんの話が楽しかったのだ。

「子どもが帰ってきたときの一瞬の表情でわかることってあるでしょう? それを大切にしたいんです。だから子どもに『お帰り』と言えるライフスタイルを選びました」

少し前まではごく普通の価値観だったそんな言葉がやけにまぶしく、新鮮にすら聞こえ、温かい気持ちで帰路についた。

小さな家庭と好きな仕事をうまく回し、自分の時間を楽しむ。それが大美賀さんにとっていちばん大切なこと。
文/むなかたようこ 写真/奈良英雄
※本記事の内容は取材時点(2014年1月)の情報です。
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