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通勤途中に模索した手法がスピード料理へ OJTのような日々から切り開いた、プロへの道【簡単スピード料理ガイド 野口 英世】

どうすれば美味しくできるか、こうすれば時間を短縮できるはず……。「忙しくても料理のある生活」をおくるために工夫したことが、フードコーディネーター、料理研究家という仕事に繋がっていった野口英世の原点。

All About【簡単スピード料理 ガイド 野口 英世】

野口 英世(のぐち ひでよ) フードコーディネーター、フードスタイリスト、料理研究家として、レシピ考案から撮影用料理制作、フードスタイリングまで手がける。無理や無駄のない、作り手重視の効率的なレシピで、美味しさとオシャレさを兼ね備えたスタイルある食を提案。自著に「楽ラククッキング」、「野口英世さんの簡単15分レシピ」、「手作りジュレ&使いこなしレシピ」

きっかけは、2時間の通勤時間

「今でも、なぜ料理を仕事にしているかわからないんです」と語る野口さん。そもそも料理を仕事にしようとは全く思っていなかった。

とはいえ、昔からモノを作ることは好きだった。学生の頃に“お料理大百科”を購入し、すべてのレシピを作ったこともあった。けれど、それは決して料理の道に進むためではなく、“集中して作る工程が楽しい”、ただそれだけだった。

20代で結婚し、横浜の自宅から都内の渉外事務所まで毎日往復2時間かけて通勤することになった。

「その頃の私は、料理はちゃんと作るものだと思っていたんでしょうね(笑)。でも、帰宅時間も遅いから、手間暇かけて料理を作る時間がない。だから通勤途中に“どうすれば早く料理が作れるのか”を考えるようになったんです」

どの工程を省いても美味しくできるか、こうすれば時間を短縮できるはず…そんなことを頭の中でシミュレーションし、帰宅後、その料理を作る。次第にこれが生活の一部となり、後の野口さんの料理スタイルにつながっていった。

スピード料理には、素材の切り方や組合せ方も大切だという

レシピという概念を知った、おいなりさん

ある時、キッチンツールについて知りたいことがあり、会員制料理サイトを利用した。それがきっかけで、掲載してある料理を作って感想を述べたり、会員同士でやりとりをするようになった。けれど、レシピを作るという発想は全くなく、むしろ、レシピは誰かが考えるものとさえ思っていた。

「たまたま、おいなりさんの作り方で、私は油揚げで包むのではなく、ごはんに油揚げを混ぜ込んで作っていると紹介したんです。すると会員の方から簡単で美味しいレシピをありがとう、と。この時、はじめてレシピという概念に気付きました」

この発想がレシピだとわかってからは、考案した料理を作っては撮影し、レシピを掲載した。また、はじめて手にしたデジカメで、自分なりにスタイリングを工夫して料理を撮影するのも、思いのほか楽しかったという。とうとう蓄積しているレシピが200を超えたこともあり、単なるレシピの保管場所としてホームページを立ち上げた。

レシピの概念を知るきっかけとなった、なりきりおいなりさん。

趣味から、料理のプロへ

自身のホームページにレシピをアップすると、すぐに編集者やメディアの方の目にとまった。けれどその頃は、雑誌にレシピを掲載させてもらっても“記念になる”程度の気持ちだったという。

ある時、オールアバウトのガイド募集に何の気なしに応募したところ、一次を通過。二次を通過したあたりから「趣味程度にしかやっていない私が、プロになっていいのだろうか…」と思いはじめたという。けれど、これまでにはなかった“簡単・時短・料理の美しさ”というジャンルがうけ、結果、ガイドに選ばれた。ガイドとなり名前も顔も公表したことで、責任感やプロとしての意識が一気に芽生えたという。同時に、広告や雑誌の仕事が次々と入るようにもなった。しかし、料理を仕事にするとは思っていなかった野口さんは、アシスタント経験もないまま従事することに。
「たいした経験はなくても現場ではプロとして扱われるので、とにかく必死でした。水面下で、たくさん勉強して、何度も何度も試作して。現場でやりながら学んでいく、日々がOJTでした」

案件ごとに鍛えられ、気づけば、ひとつの仕事が次を生み、さまざまな現場経験を積んだ。また、オールアバウトのレシピや現場のカメラマンとのやりとりに役に立つよう、カメラの学校にも通ったりと、足りないものを補い、アンテナにひっかかったものを突き詰めていった。すると、興味のある分野に仕事がより開けていったという。それは、当初のフードクリエイターという肩書から、現在のフードコーディネーター・フードスタイリスト・料理研究家という肩書へ変わったことにも表れている。

企業のタイアップや撮影コーディネーションなど、現在の活動は多岐に渡る

“機能美”のあるレシピを目指して

スピード料理にこだわるのは、自身の経験からだけではない。

「シンプルなスピード料理を提供することで、読者の方が忙しい毎日の中で自分の時間を少しでも持てればしあわせかなぁと思うんです」と、野口さん。

また、スピード料理を提供するために、野口さんが目指しているのは機能性と効率性が織りなす、アレンジ力のある、美しくて美味しい“機能美”のあるレシピ。たとえば調味料の割合を1対1対1のように同等にすると、量が増えても簡単にアレンジできる。ルールや機能性を持ったレシピにし、効率的に料理ができるように工夫を凝らしている。そして、なじみの食材であっても切り方や組み合わせにこだわれば、簡単さにありがちな手抜き感をみじんも感じさせない美しいビジュアルの料理ができるという。

また、キッチンツールのオタクと称するだけあり、ツール選びにもこだわりがある。「キッチンツールをうまく使えば時短につながるし、味も変わってきます。おまけにモチベーションも上がりますしね!身体の一部のように使っていることを感じさせないのが、いいツールの証ですね」

紹介しているツールは、展示会から小売りまで、同じ種類のものを可能な限りチェックしてから薦めているという。

お気に入りのキッチンツールは、マイクロプレインのおろしがねと、ラ・クッチーナ・フェリーチェのカトラリー

かゆいところに手が届くようなサイトに

最近は、ツイッターなどでもレシピの感想をもらうことが多いという。その際、ひとりでも読者の方が疑問に思っていると感じたら、必ずその部分を修正したり記事に追加するようにしている。

「ひとりの人が疑問に思うことは、他の人もそう思うかもしれないですから。それに記事に追加できるのは、ウエブサイトだからこそできることだと思うんです。つねに、読者の方には身近に思っていただきたいし、“かゆいところに手が届くサイト”になるように心がけています」

そのため、レシピには容量や重量などの細かい表記やその後も役立つようなアレンジをできる限り記すようにしているという。

自身のホームページ。美しい写真も野口さんが撮影 。

料理のための人生ではなく、楽しく生きりための料理

現在の活動は、料理研究家として企業の商品・レシピ開発、テレビなどのメディアでレシピ紹介や料理本の出版を、フードコーディネーターとしては広告の撮影コーディネーション、フードスタイリストとして書籍のスタイリングなどをおこなっている。それぞれの仕事には、普通の社会人だったことが影響しているという。

「料理の仕事といっても、基本は人とのコミュニケーション。普通の社会人経験があったからこそ、言葉のやりとりから相手が何を求めているのかをみつけられるんだと思っています」

必ず求められている以上のことを提案する―。この姿勢だからこそ、仕事の幅が広がったり、クライアントとの良好な関係にもつながっている。

また、料理が仕事になった今も、帰宅後は必ずキッチンに立つという。「自宅で料理をすることで、仕事とプライベートとのスイッチが入れ換わるんです。料理に集中することで気分転換やストレス解消にもなりますね。それに普段の料理には次のレシピへのヒントもあるんですよ」

今は料理の仕事が楽しく、自分らしくて気に入っているという。目標は自らのディレクションで、洋書のような、眺めて作って楽しめる料理本を多言語で出版すること、食品やキッチンツールの開発に携わることだと語るものの、10年後はこの仕事をしているかはわからないとも。

「料理のあるライフスタイルやテーブルウエア、キッチンツールが好きで、それがたまたま今の仕事につながっただけなんです。だから、料理だけを人生の目的にするのではなく、型にはまらず、いつも自分の興味の赴くままに楽しんでいたい―。それが私のモットーでもありますね」


最新刊の「手作りジュレ&使いこなしレシピ」(河出書房新社)より発売中。
文/山本初美 写真/金田邦男
※本記事の内容は取材時点(2012年6月)の情報です。
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