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そのスイーツの、作り手の思いを知っていますか? パティシエの思いを伝えたい。 よりおいしく味わってほしいから。【スイーツガイド 平岩 理緒】

繊細にして緻密。これでもかというほど豊富な情報量、そしてパティシエ、お店、スイーツそのものへ向けるまなざしの温かさ。スイーツジャーナリストの平岩さんの記事は、上質のスイーツのように読み手を満足させる。そんな平岩さんのガイドの原点を探る。

All About【スイーツガイド 平岩 理緒】

平岩 理緒(ひらいわ りお) スイーツ情報サイト「幸せのケーキ共和国」を主宰するスイーツジャーナリスト。新聞、雑誌などでスイーツ情報を発信するほか、カルチャースクールや製菓系専門学校での講義、スイーツイベントのコーディネート、商品開発コンサルティング、コンテスト審査員などを行う。1カ月に200種類以上のスイーツを食べ歩く。

徹底的な現場主義

よくあるスイーツの紹介記事と平岩さんの記事の違いは明白だ。それはスイーツの紹介だけに終わらないこと。

どんな場所にそのお店はあるのか、どんな広さでどんなレイアウトで、そこにはオーナーパティシエのいかなる選択があったのだろうか。そして、パティシエがどういう思いでそのスイーツを作ったのか、どんなところに苦労をしたのか、そこまで理解した上で記事は書かれている。

平岩さんに、記事を書く上で心がけていることを伺った。

「常に現場主義。新しいお店のオープンなどでしたら紹介のリリースを事前にいただけることもあります。でもどんなにそこに情報があっても、私は現場に必ず行き、必ずひとつひとつのお菓子を残さず食べます」

なぜか。
「ケーキは、ひとつ丸ごと食べて満足するように味、大きさ、バランスを考えて作られているから、全部食べるのです。またリリースにはこう書いてあるけれども、自分が食べてみたらこの隠れたアイテムが気になるなど、違う感想を持つこともあります。そして店頭には宝物みたいな情報がたくさん詰まっています。事前にはわからない情報を見つけに行くのが好きなんです」

現場に行って自分の目、耳、舌、といった五感をフル活用して情報を集め発信する。

とことん調べて、作り手にもしっかりインタビュー。ついついのめりこんでしまうのは、趣味の一環としてスイーツ取材をしていた頃から変わらない。


Nikonのカメラは、42倍ズームができる逸品。海外でのコンクール取材などのとき遠くからでも撮影ができる優れもの


VICTORINOXのナイフ(左、中央)は、小ぶりで持っていきやすく、波刃タイプはタルトなど堅いパーツのある商品でも引っかからずに切れる。先のとがったタイプは、ボンボンショコラやマカロンなどの断面がきれいに切れるのでお気に入り。メルティングポットのチーズナイフ(右)は、穴があいているため刃離れがよく、チーズはもちろんチーズケーキやムースなども切り分けやすく美しい断面を見せることができる

歴史好きな少女

現在、スイーツジャーナリストとして活躍する平岩さん、大学生のころまでは歴史の教員になることを夢見る少女だった。

図書館が大好きで、気になることを調べ始めると時間がたつのも忘れてしまう一本気なタイプの女の子。歴史の教員になるつもりで大学院まで進むが、「もう少し人生の選択肢を広げてもいいかも」と考えて就職活動へ。

就職したのは、マーケティングの会社だった。マーケターとして食品メーカーなどのプロモーション、リサーチを担当し、商品開発の販促のプロセスに深く関わったことは、その後の人生に大いに役立つこととなる。


「歴史はすべての道や学問の基礎となるもの。お菓子について学ぶ上でも、世界史、地理、宗教などの予備知識が不可欠。だから私の中では違和感なくつながっています」

作り手の思いを知るために、製菓学校入学

2001年趣味の一環として、ホームページ「幸せのケーキ共和国」を立ち上げ、スイーツ情報の発信を始める。これがスイーツジャーナリストとしての原点と言えるが、業界に名が知られ始める岐路を迎えたのは2002年デパ地下グルメ選手権で優勝してから。

幸せのケーキ共和国: http://shiawasenocake.net/

スイーツ道を究めるべく、2006年満を持して退社。スイーツジャーナリストとして独立した活動を開始する。

退社後、まず東京製菓学校に入学する。その理由は、お菓子の作り手として学びたかったからではない。

もっと作り手の話を理解できるようになるためには、自分も作り方の基本がわかっていないとダメだと感じたからだそう。
「そんな動機で入学した人は、私が初めてだったかもしれません」とにこり。

今回の撮影場所として平岩さんが指定した場所が、この東京製菓学校だ。

「ここで、お菓子作りの基本をしっかり学んだことで、『基本はこうだけれど、この店ではどうしてこういう作り方をしているのか』など、より深い質問ができるようになりました」

平岩さんにとって東京製菓学校は、スイーツジャーナリストとして一歩を踏み出す「スタート地点」と言える場所なのだった。


幸せのケーキ共和国。趣味の一環で初めたホームページ。すでに開設して12年がたち、月間ページビュー数約50万、ユニークユーザ数2万以上

作り手の思いを伝える

歴史好き、マーケティング会社、ジャーナリスト、紆余曲折のようだが平岩さんの中で一貫しているのは「人から人へ、思いを伝えたい」ということ。

歴史であれば、「史実に基づく様々な見解を人に伝えたい」。マーケターであれば、「メーカーの思いを買い手に伝えたい。あるいは、消費者の思いをメーカーに伝えたい」。

いつも、「とことん調べて、人の思いを人へ伝えたい」という姿勢は変わらない。
ケーキであれば、パティシエがどういう思いで作ったか、どの作業に苦労があったのか。なぜそこまでやるかを伝えたいと考えている。
All Aboutの起ち上げからスイーツガイドとして活躍中の下井美奈子さんに誘われて、ガイドになったのは、2011年のこと。すでにスイーツジャーナリストとしてある程度認知されていたが、それから3年たった今、メディアでの仕事の依頼もさらに増え、その影響力の大きさを感じている。

All Aboutの記事では、スイーツに詳しくない人でも興味がもて、思わず行ってみたい、食べてみたいという気になるような記事つくりを心がけている。

「私の記事を読むことで、読者の方が目の前のケーキをよりおいしく感じられたということがあれば、とてもうれしいですね」

また、All Aboutには様々な分野のガイドがいるので、今まで自分の周囲にいなかったスペシャリストと出会う機会が増え、刺激を受けることも多いそうだ。



「3つ星スイーツ」は日本経済新聞社で連載している記事をまとめたもの。下井美奈子さんとも一緒に日経スイーツ選定委員会の委員を務めている


「アフター6のスイーツマニア」は、デパ地下やエキナカなど仕事帰りにも買いやすいスイーツをまとめたもの

風邪もチーズケーキを食べて治す

月間200種以上のスイーツを食べている平岩さんは、健康管理をどのように行っているのだろうか。伺うと意外にシンプルな方法だった。

それは「摂取した分程度のカロリーは消費すること」。
週に1~2回はジムに行き汗をかく。家で食べる食事は野菜や海草を多く取り入れ、白米だけで炊かず、複数の具材を炊き込むなど工夫しているとのこと。

とはいえ、風邪をひいたときでも食欲が衰えたことはなく、子どもの頃は、大好きなトップスのチーズケーキを食べて回復していたというから、やはり並の人とは違うのかもしれない。

「母が『風邪をひいた時にこそ、しっかり食べなければ!』という人で、体調が悪いと、私が好きだったトップスのチーズケーキを買ってきてくれたんですよ。でもおいしいのとうれしいので元気になっていました」と笑う。

「健康であってこそ、食べ物がおいしいと感じられるし、人に伝えることもできる。代わりのきかない、体が資本の仕事ですから、体調管理は常に怠らないようにしています」


「病気になっても食欲が衰えたことがないんです」と涼しい顔でサラリ

スイーツは幸せの象徴。次世代へつなぐ

今、気になるキーワードを伺うと「糖質制限スイーツ」との答えが返ってきた。

高齢化社会になってメタボも無視はできない。
「ケーキって誕生日とかクリスマスに、みんなで食べることが多いですね。でも家族の中に、糖尿病やメタボを気にして糖質を制限している人がいれば、みんながケーキを食べるのを我慢しなくちゃいけないシーンがあると思うんです。

『糖質制限スイーツのおかげでみんなでお祝いできてよかったと涙を流して喜んでくれた』などという話もパティシエの方から伺っていますので、今後ますます注目されるだろうなと思っています」

スイーツジャーナリストとして独立して12年。今、平岩さんはノリに乗っている感がある。

やりたいことを聞けば、「まずは年内に出すスイーツ本について全力で取り組むこと。将来的には、日本のスイーツ界の重鎮である人たちのお話を伺って、菓子業界の歴史をひも解くような本を書きたい」とのこと。偉大なる先人たちから多くを学び吸収し、次世代につないで行きたいという意欲と使命感に満ちた言葉だった。

それは多くの先人たちやパティシエに尊敬の念を強く持つ、謙虚で素直な平岩さん自身の魅力があってこそ成し遂げられるミッションなのかもしれない。


「そろそろ、今年のクリスマスケーキの動きをリサーチ中です」


取材協力:東京製菓学校
文/宗像陽子 写真/須藤明子
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