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近くても遠くても雨が降っても。夏なら夏の、冬なら冬の。 鉄道の楽しさ、僕が教えます【鉄道ガイド 野田 隆】

現在、定年後ライフを鉄道旅行作家として活躍中の野田さん。趣味と仕事の分かれ目は、「伝える」先の読者を意識すること。鉄道の楽しさをひとりでも多くの人に伝えたいと語る。

All About【鉄道ガイド 野田 隆】

野田 隆(のだ たかし) 名古屋市生まれ。生家の近くを走っていた中央西線のSL・D51を見て育ったことから、鉄道ファン歴が始まる。早稲田大学大学院修了後、高校で語学を教える傍ら、ヨーロッパの鉄道旅行を楽しみ、「ヨーロッパ鉄道と音楽の旅」を出版。その後、守備範囲を国内にも広げ、2010年3月で教員を退職。旅行作家として活躍中。
とても穏やかな笑顔。わかりやすい説明。さすが学校の先生だけのことはある。「鉄道」ガイドの野田さんは、今高校教師からその活躍の場を変え、多くの人に「鉄道の楽しみ」を伝える立場にいる。

物心ついたときには、家の近くを通る中央西線の蒸気機関車D51を夢中になって見ていたというからその「鉄歴」は、筋金入りだ。小学校のときに鉄道には無縁の団地に引っ越し、それからは模型にシフト。高校のころは、お金があれば、鉄道に乗るよりは模型を買って走らせたり、雑誌を眺めて外国の列車に思いを馳せたりしながら鉄道ライフを楽しんでいたそう。ドイツの模型メーカー「メルクリン」を知ってからは、お小遣いをためては模型の収集に勤しんでいた。

大学院を出て高校教師となってから初めてアメリカへと旅行に出る。アメリカ人でもあまり乗らないような鉄道に乗り、大陸のスケールの大きさに圧倒された。その後は毎年夏の休暇を利用しては主にヨーロッパを旅する。雑誌の中にだけあった美しい風景や列車は、目の前にあった。

列車に乗って行けるところまで行き、その日の宿を決める、その日暮らしの気ままな旅は、鉄道の魅力や、文化交流など野田さんの人生にとても豊かなものを与えてくれた。最初の著書「ヨーロッパ鉄道と音楽の旅」から数えて本の執筆もすでに17冊、「タモリ倶楽部」や「世界の車窓から」などメディア出演・協力なども増え、今や押しも押されもせぬカリスマ「乗り鉄」である野田さんだが、その原点は若い頃の気ままな鉄道旅行にあるといっていい。


「この本を読みさえすれば、外国どこでもひとりで行けるよ」と言われて買った「地球の歩き方」。後に「ユーレイルバスで巡るヨーロッパ鉄道の旅」などの記事を書くようになった

鉄道の楽しみを、わかりやすく伝えたい

さて、趣味の領域を超えて、カリスマ「乗り鉄」となった野田さんがオールアバウトの記事を書くに際して心がけていることはなんだろうか。それは「わかりやすく。楽しく」。

オールアバウトでの読者は鉄道ファンだけとは限らない。だからこそ、広い購読者層に鉄道の魅力を伝えられるよう気を配っている。
一部の鉄道ファンの中には「観光列車」というものを認めないという人もいるけれど、野田さんは観光列車をどんどん紹介している。毎年廃線になってしまう路線がある一方で、新しい魅力のある観光列車を紹介することで、鉄道ファンが増えたらそれは大いにうれしいことだと感じるからだ。

たとえば野田さんが一番最近オールアバウトに紹介した記事は、北近畿タンゴ鉄道「あおまつ」「あかまつ」。

「あおまつ」は、普通運賃だけで、窓を向いたテーブル席から景色が楽しめたり、地元の名産品などを陳列したショーケースを眺めたり、ソファー席に座ったりできる観光列車だ。「あかまつ」は乗車整理券が必要だけれど着席は保証される。お土産や関連グッズ、軽食や飲み物も販売しており、どちらも列車そのものが旅の主役として楽しめる。
「誰でも楽しめる鉄道としてはトロッコ列車などもおすすめですよ」と野田さん。窓がなくて自然の空気に触れられ、開放感は満点。座席も素朴な感じが味わえる。
鉄道を移動のツールとしてしか見ていなかった読者にとって、野田さんから教えられる知識は、全く知らなかった世界がパッと目の前に広がるような気がするほど楽しい。

最近では「ママ鉄」という言葉も出てきた。子どもの鉄道好きに付き合っているうちに鉄道の魅力にはまってしまったママたちのことだ。
「育児中のママたちは慌ただしいですからね。日常はなかなかのんびりできなくても、たまには子どもと一緒にローカル線に乗って旅をしてもらえると、気持ちが潤うんじゃないかなあ」。そういう野田さんの目はとびきり優しい。

著書第1号の「ヨーロッパ鉄道と音楽の旅」は、「地球の歩き方」などに書き溜めたエッセイをまとめたもの。「ドイツ=鉄道旅物語」は横溝英一さんの手書きのイラストも味があると評判に

執筆には「乗り鉄」としてのこだわりもチラリ

門戸を広げ、多くの人にわかりやすい記事を書く一方、その姿勢は常にプロの「乗り鉄」らしい真摯さに溢れている。
調べ物をする上でよく行くのは国会図書館だとか。主に古い時刻表を見に行くのだと言う。「現在東北のはやぶさは○○から○○まで○時間かかるけれど、昔は○時間かかった」という1行を書くだけでも、昔の列車での所要時間を割り出すために、当時の時刻表を使って時間や停車駅などを念入りに調べる。「乗り鉄」としての心意気は、たとえ読者が初心者であっても迎合することはない。

普段は、働いている奥様のために主夫業もこなしながら、依頼原稿を書いたり調べ物をしていて、逆に鉄道に乗る時間がとれなくなることも。2週間もデスクワークが続くと、「鉄分不足の禁断症状」になるとか。「熱中症と同じでね。鉄分不足になると、倒れちゃうんですよ」と茶目っ気たっぷりに笑った。

ついつい鉄道グッズをみると買ってしまう。これは都営大江戸線の車両イラスト入りの傘。最寄駅で見つけて思わずゲット

鉄分不足になったら、気ままに鉄道に乗り込む。

そんなときには、気ままに鉄道に乗り込む。
特にお気に入りの列車があるわけではない。この間は千葉にいったから今度は東海道に行こうとか、しばらく北に行っていないから浅草からスペーシアに乗って日光の手前で乗り換えて会津若松に行ってみようとか、時間がなければ都電荒川線に乗るだけでもいい。風の向くまま気の向くままが楽しいという。

「乗るのが一番楽でいいですね。ぼーっと乗ってれば、時間はすぎるし楽しいし。雨が降ったら雨なりに、窓の外の景色も水墨画みたいに風流でいいものですよ。夏はクーラーだってはいっているから快適、『夏の緑は豊かでいいなあ』なんて、のんきに言っていればいいんですから」。
鉄道に乗って、“鉄分”を充分補給して帰宅して、また鉄道の原稿を書く。それが何より幸せな野田さんなのだ。

使い込まれた大人の休日倶楽部ビュー・Suicaとカードホルダー。ほとんどの買い物にビューカードを利用しポイントをゲット。グリーン車のグレードアップ券をゲットしたり、18きっぷと一緒に普通車のグリーン車に乗るなどワザも駆使している

線路は続くよ、どこまでも

鉄道に興味のなかった人たちが、自分の書く記事によって、鉄道に乗る楽しさを知ってくれたら。
鉄道に乗って地方へ行く人が増え、そのことで地域が活性化して潤えば。
まだまだ東日本大震災の爪痕が残る路線にひとりでも多くの人が乗りに行って、復興に少しでも役立てたら。
そんなささやかな支援ができればうれしい。
野田さんはそんなふうに考えている。

今気になるのは、今年(2013年)の秋から冬にかけて、岩手県で復活予定の四台目の蒸気機関車とそれに伴う銀河鉄道計画、そしてななつ星in九州。

JR西日本、JR東日本でも各社ななつ星のようなクルーズトレインを考えるだろう。どういう列車になるのか、青函トンネルを抜けて北海道まで行くのか。デザインはどうするのか。そんなイマジネーションに胸も震える。
「『線路は続くよ、どこまでも』なんです。終着駅はありません」。

穏やかな笑顔で心底楽しそうに語る野田さんの話を聞いていたら、いつの間にやら鉄道に乗りたくなってきた。週末にフラリと乗りに行ってみようか。
移動の手段としてではなく、鉄道そのものを楽しむために。

1985年の「トーマス・クック時刻表日本語版」創刊号に掲載されたエッセイ「線路のひびきは音楽のひびき」は、執筆活動の原点となった

「行き先表示版みたいなのは家にもあるよ。さすがにつり革はないけど」とニコリ。「収集鉄」でもある野田さん。ご自宅にはかなりのお宝があるようだ
取材協力/お酒・鉄道好きの終着駅 カップ酒・缶詰バー「キハ」
HP:http://kiha-sake.com/index.html
文/むなかたようこ 写真/奈良英雄
※本記事の内容は取材時点(2013年7月)の情報です。
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