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旅行会社から旅館の事業再生、オプショナルツアー作りへ 旅行会社に依存しない、本当にいい宿を伝えたい【旅館ガイド 井門 隆夫】

これまで見てきた旅館は1,000軒以上。観光地や旅館の事業診断、事業計画、商品開発を仕事とする傍ら、プライベートでも各地の旅館を訪れている全国の旅館を知り尽くした旅館の専門家。旅館マエストロ 井門隆夫の原点とは。

All About【旅館 ガイド 井門 隆夫】

井門 隆夫(いかど たかお) 「旅館マエストロ」と呼ばれ、全国の旅館を知り尽くした専門家。これまで見てきた旅館は1,000軒以上。観光地や旅館の事業診断、事業計画、商品開発を仕事とするかたわら、利用者としても各地の宿めぐりを楽しみ、おいしい食と酒を堪能。関西国際大学経営学科(観光コース)准教授。

宿に興味を抱いたのは中学時代

「小学生の頃は鉄ちゃん(鉄道が趣味)。中学生になるとユースホステルを利用して全国を旅するようになりました」と、宿に興味を持ち始めた頃を振り返る。ユースホステルとは全国にある1泊2000円程度で泊まれる宿。中学時代の作文には“ユースホステルのオーナーになりたい”とさえ綴っていたという。

大学生の頃、運よくも先生の鞄持ちに任命された井門さんは、京都・祇園界隈にある一見さんでは滅多に泊まることのできない片泊まりの宿(1泊朝食のみ)に毎年足を運んだ。築数百年もの歴史を刻む木造の小さな宿、夕食は出ず近隣の料亭や小料理屋で京の夜を楽しむ―はじめて体験する京都の旅館に、こんな世界もあるんだと心が躍ったという。

沖縄支店を希望するも旭川支店の配属に。しかし、ここでの経験が旅館を知るきっかけになったと井門さん。

旅行会社に入社して知った旅館の姿

旅が好きだから受けてみるか―気軽な気持ちで受けた大手旅行会社に採用されたものの、配属されたのは旭川支店。

「とにかく小さな支店だったので、営業や切符の手配、修学旅行を手掛けたりと、あらゆることを行いました。団体旅行の添乗もしていたので、多くの旅館を泊まり歩けるようになったんです」

旅館を知れば知るほどわかったのは、旅館のマイナス点。けれど、決して旅館を嫌いになることはなかった。むしろ旅館の経営者とも知り合いになると同朋意識が芽生え、もっとお客さんを満足させるためにできることはないか―そんな思いが悶々と積み重なっていったと語る。

30歳を前に東京の本社勤務となり、旅館やホテルを相手に商品を作ったり、品質管理をする仕事に就いた。

「品質管理とは、お客様からのアンケートを集約して統計的な評価をとる仕事。次第に2000軒の旅館の総合評価が頭に入りました」

この2000軒の旅館には、アンケート評価を上げるための説明を行いに足を運んだという。しかし2000軒を管理するうちに、あることに気づく。

「旅行会社に依存している旅館は決していい宿とはいえない。本当にいい宿は、なじみ客やファンがいて、広告をださなくても成り立っている。旅館はそれを目指すべきだし、旅行会社もそういった旅館とも付き合っていくべきだと思ったんです」

事業再生で変わったホテル五龍館

そんな思いから、社内ベンチャー制度を利用して立ち上げたのが、旅館のダイレクトマーケティング会社。旅行会社を利用せず、直接予約のお客様を増やすための支援に取り組んだが2年で白旗を上げることに。その後、旅行会社を離れ、ツーリズム・マーケティング研究所に身を置きながら、友人がはじめた旅館をサポートする会社で、旅館に融資している金融機関主導の旅館の事業再生に携わった。

「驚くことに事業再生の対象となる旅館は、かつて担当した2000軒に該当する宿ばかりでした。経営者はもちろん、旅館のすべてを知っていたので、どんどん仕事が入ってくる。10年間で100軒以上は手掛けました」

なかでも一番印象に残っているのは、長野県・白馬にあるホテル五龍館。きっかけは約10年前のクリスマスプランだった。子どもを持つ女性をスクリーニングして、インターネットと携帯メディアを通してアンケートを送り、最後に“サンタクロースはパパじゃない、本当のサンタクロースがやってくるホワイトクリスマス”と題し、宿のURLのリンクをはった。すると、1ヵ月の募集期間にもかかわらず10組のお客さんが集まった。

「このプランは男性スタッフがサンタクロースになり、夜中に寝ている子どもたちを起こして両親から預かったプレゼントを渡すというもの。リピーターになってもらうために“来年もまたくるからね”の言葉も添えるんです(笑)」

これをきっかけに大きく変わったのはスタッフだった。結果、10年前は、旅行会社を通しての集客が約7割だったが、事業再生後の今は、ほぼインターネットやリピーターのお客さんだけだという。

「30代は旅行会社でノウハウを蓄積しようと日々勤めてました」と振り返る。

五龍館では「ママも納得温泉キャンプ」という2泊3日のプランも人気。毎年500名ものお客さんが訪れるという

旅館は2通りある。それを伝えたくでガイドに

All Aboutのガイドになったのは、旅館の事業再生を手掛けるようになった2001年から。

「私の頭の中には、旅行会社に依存している旅館とそうでない旅館の2つがありました。前者も必ずしも悪いところばかりではなく、価値感が違う人たちで泊まる場合は全員がまんべんなく満足できる。でも、自分が楽しみたい旅館は別。幹事になって人を喜ばす宿なのか、自分が楽しみたい宿なのかによって旅館は大きく変わってきます。それを伝えたくてガイドになりました」

これまでに1年間で多い時は200泊も旅館に泊まった、と井門さん。また旅館の在り方を勉強するために、日々、旅館を探しては一般客として宿泊しているという。

「リピーターを確保し、且つ地域に根付いている旅館が一番勉強になります。たとえば、倉敷にある“旅館御園”。10室ほどの小さな宿ですが、実は有名なプロのミュージシャンたちが常連で、時々、宴会場で生ライブがあるんです。浴衣を着て、ビールを飲みながら演奏する、とにかく自由なライブ(笑)。旅館は泊まるだけじゃない、旅館を舞台にいろいろな楽しみ方があることを教えてくれました」

旅館御園

旅館御園でミュージシャンのライブが行われているのは、馴染み客こそが知る情報だそう。

旅館と一緒に地域を盛り上げていきたい

実は日本には、現地発着のオプショナルツアーはなかったが、2007年以降、旅行業法が変わり、各地でオプショナルツアーが作れるようになった。そこで現在、井門さんが取り組んでいるのが、地方に旅行会社を作り、オプショナルツアーを作る仕事。

「オプショナルツアーを必要としているのは地方の自治体だけでなく、実は旅館なんです。オプショナルツアーがあれば連泊にもつながりますから。旅館と一緒に地域を盛り上げたり、新しいことに取り組んで、楽しい旅館を作っていきたいですね」

また、最後に井門さんが考えるいい旅館についても語ってくれた。

「京風懐石を出すだけが旅館じゃない。旬のものを出せるのが本当にいい旅館だと思います。日本の旬の食材には、走り・旬・名残があるので、できれば走りをいただきに旅館に行って欲しいし、私はそのよさをもっと伝えていきたいですね」

井門さんの旅の必須アイテム。手帳には落とした時のことを考えて、宿名は記していない。。
文/山本初美 写真/金田邦男
※本記事の内容は取材時点(2012年10月)の情報です。
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