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住んでいる場所は簡単には変えられないが、地域の災害特性をつかみ、自分の被害リスクを下げることは誰にでもできる【防災ガイド 和田 隆昌】

「あなたの防災への備えは万全ですか?」災害危機管理アドバイザー和田さんは、災害に対する備えは、地域ごとに、家庭ごとに、違うのだと説く。誰でもわかりやすく防災について考えることができ、被害リスクを下げるためのノウハウを伝え続ける和田さんの、ガイドの原点とは。

All About【防災ガイド 和田 隆昌】

和田 隆昌(わだ たかまさ) 災害危機管理アドバイザー。感染症で生死をさまよった経験から「防災士」資格を取り、災害や危機管理問題に積極的に取り込んでいる。長年のアウトドア活動から、サバイバル術も得意。主な著書に『大地震 死ぬ場所・生きる場所』(ゴマブックス)があり、講演会ほかTVなどマスコミ出演多数。

感染症で生死の境をさまよう

厚い胸板、がっしりした上背、精悍な顔つき。何があっても危機を乗り越え、窮地に陥る弱者を救い出してくれそうな頼もしいオーラを醸し出している和田さん。

今災害危機管理アドバイザーとして活躍する和田さんだが、ここに至るまでいくつもの転機があったという。

和田さんは、大学卒業後、ヨット・サーフィン・アウトドアといったレジャー関係の専門誌の編集に携わっていた。その後独立し、NYでコーディネート会社設立寸前のところでテロ事件があり、会社設立を断念。
「あのテロ事件がなければ、今頃NYで、エンターテイメントのコーディネートをしていたでしょうね」

その次の転機は病だった。帰国後の2004年に、和田さんは感染による重度敗血症となり生死の境をさまよう経験をする。その病を克服後始めた「危機管理ブログ」のアクセスがのび、ネットの力を目の当たりにすることとなった。

それまで「これから自分がやるべきこと」として考えていたのは、ベースはアウトドアだった。けれども大病を経験したことで、人生観も大きく変わった。

「アウトドアの専門家として生きるのもいい。けれどもこの技術を、レジャーという範疇にとどまらず、もっと人の役には立てることはできないのか」という思いが次第に強くなる。


「アウトドアの技術と知識をもっと社会に貢献する形につなげたいと思ったのです」

アウトドアと防災の知識をドッキングさせて、独自の存在へ

もう一つ、和田さんの人生において大きな出来事があった。それは1995年の阪神淡路大震災である。震災数日後に、和田さんは神戸市長田区の長田駅近くに降り立っていた。靴メーカーオーナーである友人の会社を訪ねるためだった。建物は奇跡的に倒壊を免れたが、駅から2キロほど先にある友人の会社までに、あるべき景色がまるでなくなっていた。

「そのころは、まだ災害危機管理アドバイザーとして活動はしていませんでしたが、あのときに、災害直後の現場や避難所がどういう状況になっているか自分の目と耳で、見たり聞いたりしたことは、大変大きな経験となって心に残りました」

その後、新潟中越地震でもなじみの宿が被災、取材や現地視察を行うが、現地での活動ではやはり多くのものを学んだ。
親類の住む東日本大震災の被災地には、長期にわたり訪問を続けている。その被害はまだまだ現在進行形だ。

アウトドアの知識をレジャーとしてではなく、防災に役立てる方法を伝えられれば、もっと世の中に貢献できるのではないかと考えた和田さんは、2004年災害危機管理アドバイザーとして本格的に活動を始めた。

All Aboutのガイドになったのは2006年のこと。「危機管理ブログ」のアクセスがいいことを知った友人がすすめてくれたという。

わずか1年後の2007年にはAll Aboutから声をかけられ、All Aboutから出版するガイドの本のうちの1冊に選ばれた。それが、「大地震 死ぬ場所・生きる場所」(ゴマブックス)である。以降メディアからも声がかかってくるようになった。

「やはり、知名度を上げる上でAll Aboutのガイドになったことは大変大きな力となりました」

現在は、北海道から沖縄まで、全国の自治体・青年会議所・各種団体・企業などに呼ばれて講演会や防災イベントの監修やコーディネーターの活動をメインに行っている。



2011.4 東日本大震災の被災地気仙沼にて。幼少時に幾度となく過ごした風景が根こそぎなくなってしまったことを確認するのは、今でも一番つらいことだ


講演では、直に反応がわかるので参加者が「役に立った」と喜んでくれるとやりがいを感じる

住んでいる地域のことをもっと知る

和田さんは言う。
「すべての災害には、その土地特有の原因があるんです。それを知り現状を把握して、できることをやっておけば、命を守れるはずです。そしてそれは行政頼みではだめなのです」

災害対策は、全国一律ではありえない。
自分たちが住んでいるところは、海の近くか、山のそばなのか、都市部にも特有のリスクがある。過去にどういう災害が起きて、そのときどういった対応がされたのか、されなかったのか。
生死を分けた要因はなんだったのか。
何を優先しておくべきかはその地域ごとに違うと和田さんはいう。
東日本大震災のときも、津波教育がされていた地域とそうでない地域で大きく死亡率が違ったことは記憶に新しい。
さらに各家庭においては、どんな建物にどういう家族構成で住んでいるのかでまたリスクも対策も変わってくる。そのことを誰もがもっと認識するべきだと和田さんは説く。

とはいえ、大上段に「防災」をふりかざしても、誰もふりむかない。
遊び心を否定せず、楽しみながら「もし電気や水がなかったら」「もし、ふとんがなかったら」と状況を家族で想定し、経験しておくことも大切なことだと和田さんは感じている。

「お父さんが自慢げに、アウトドアの知識を教えておくだけでもいいと思いますよ。庭でキャンプのまねごとをするだけでもいい。そうやって楽しみの中で、少しずつ非常時に備えて考えておくことが必要だと思います」


週末に、講演がなければ山歩き。身近に自然を感じていることが緊急時にも必ず役に立つ。 体力をつけるためにも欠かせない


メディア出演も増えて来た。ラジオ番組の収録時

防災は「伝わりにくく」「覚えておけず」「めんどうくさい」もの

「防災意識は『伝わりにくく』『覚えておけず』『めんどうくさい』ものなのは当然のこと」と和田さんはいう。
確かに筆者も、防災の日が近づけばあわてて防災袋の中身を確認して、しばらくは枕元に置いたりする。しかし1ヵ月も立てばいつの間にやら意識も薄れ、何がどこにあったかも忘れる始末。継続して防災意識を持つのは意外とむずかしい。

「だからガイド記事では、親しみにくい防災の知識を『わかりやすく』『身近で』『誰もがすぐに使える』内容を心がけています」

たとえば記事では、一般論として例を挙げたうえで、読者がそれぞれ自分の問題として考えられるよう文末に「ポイント」を挙げるなど工夫する。
危機をあおるのではなく、「自分に対する被害リスクを下げることは誰にもできるはず」というメッセージは、多くの人の心をつかむ。


「ほんの少しでも記事を記憶の片隅に置いてもらえれば、被害に遭う人が少しでも減るのではないでしょうか」

防災教育へとつなぐ

さて、和田さんの活動は、将来的にどんな展開が予想されるだろうか。

和田さんは、自然災害の多い日本では、小学校のうちからもっと防災教育がなされるべきだと感じている。
現在和田さんがコーディネートしている小学生対象のイベントでは、水を節約しながら調理をさせ、自分で作ったダンボールベットで寝るなど、日常とは違うことを経験させる。子どもたちは大いに楽しみながら「不便を経験する」という。

「他にも、防災教育として行われているDIG(災害時想定図上訓練)を進化させたフィールドワーク検定と呼ぶアウトドアの知識を加えた防災訓練を各地で行っています。小さなお子さんから高齢の方まで、参加者が今まで見過ごしていた地域の自然環境を見直すことで、地元への理解を深め、楽しみながら被災リスクを下げることが可能になります」

「自然の恵みを享受しつつ、その環境を深く理解することで、命を落とすリスクを下げる」。
それは言ってみれば「当たり前のこと」だ。その「当たり前のこと」を忘れたときに、災害はいつの間にか背後に忍び寄っているのかもしれない。
文/宗像陽子 写真/平林直己
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