沈黙のち逡巡――。何千回と反芻したその先にあるもの
社員が大切にしている言葉を紹介する連載企画「Quotes」。第6回に登場していただくのは、メディア事業部 メディアアライアンス部 マネジャーの中西さん。総合情報サイトAll Aboutの初代編集長から言われ、十数年、何百回、何千回と実際に口にし、心のなかで反芻している一言を紹介します。
■返す言葉もなく沈黙――
盛夏、夕方といえどもまだ日が長く、オフィスに角度が低くなった西日が差し込んでくる。
「コンテンツをつくるものは情報に敏感たるべし」
当時(2007年)、Twitterがまだ日本にはなく、最速ニュースといえば、テレビかラジオ。そして、ようやくYahoo!ニュース。編集長の方針で、オフィスにはFMラジオ「J-Wave」が朝から晩まで流れ、クリス・ペプラーの野太くも、活舌のいい声だけが毎日耳に残っていた。
2004年に入社し、3年経って、マネージャーに。「ゴリ!(私のあだな)」と、当時のオールアバウト編集長・森川さゆりさん(以下「さゆりさん」)のデスクに呼ばれ、返す言葉もなく沈黙――。「マネジメント」の「マ」もわからないなか、作成したメンバーへの目標設定でこう突っ込まれたのだ。
「ゴリ、この目標はメンバーにとって納得感はあるの?」
再び、沈黙のち逡巡。「納得感」か。ゴールから逆算したPV(閲覧数字)目標を設定しただけで、納得感もなにも、やってもらわないと困る。そもそも、メンバー視点で考えてもいないし、考えようと思ったこともなかった―――。
「コンテンツをつくるものは情報に敏感たるべし」
当時(2007年)、Twitterがまだ日本にはなく、最速ニュースといえば、テレビかラジオ。そして、ようやくYahoo!ニュース。編集長の方針で、オフィスにはFMラジオ「J-Wave」が朝から晩まで流れ、クリス・ペプラーの野太くも、活舌のいい声だけが毎日耳に残っていた。
2004年に入社し、3年経って、マネージャーに。「ゴリ!(私のあだな)」と、当時のオールアバウト編集長・森川さゆりさん(以下「さゆりさん」)のデスクに呼ばれ、返す言葉もなく沈黙――。「マネジメント」の「マ」もわからないなか、作成したメンバーへの目標設定でこう突っ込まれたのだ。
「ゴリ、この目標はメンバーにとって納得感はあるの?」
再び、沈黙のち逡巡。「納得感」か。ゴールから逆算したPV(閲覧数字)目標を設定しただけで、納得感もなにも、やってもらわないと困る。そもそも、メンバー視点で考えてもいないし、考えようと思ったこともなかった―――。
■心を打つ人の言葉は身に染み入る
さゆりさんはリクルートで『じゃらん』『ゼクシィ』を創刊し、『ゼクシィ』では編集長に就任。そして、『All About』の立ち上げ。小さな体に、静かに燃える負けん気と、つくるものへのこだわり。華々しいキャリアに「紙メディアからネットメディアへの転身」というわかりやすさも手伝い、注目の女性として、よく女性誌に取りあげられていた。
当時のインターネットコンテンツは有象無象で真偽もわからなければ、そもそも誰が書いたのかもわからないものが多く、さゆりさんは、そこに編集長として「質」と「編集」という概念を掲げて「信頼できるネットコンテンツ」の実現に邁進。私はそのそばでただただ「これなら読者に伝わる」「これは信頼たるべき情報だ」と考えながら、ガイドと二人三脚でコンテンツをつくっていた。
(ちょっと話はさかのぼり)オールアバウトに転職し、驚いたことは多々あったが(短パン&ハーフパンツで仕事をする社員がいたりとか)、なかでも衝撃を受けたことが「上司が人の話を聞く」ということだった。
それまでの出版社での業務形態は、非常に合理的かつ効率的。原則自分で外部からの電話はとらないし(電話担当が一括して受け付ける)、上司への確認物は専用ボックスに入れて処理。業務集中時間「Quiet Time」なるものもあり、話すことすら憚られる(特に上司には)。生産性向上には、あるべき姿だが、ちょっとした疑問なども話しづらく、上司の顔色を見ては気を揉みながら働いていた。
そんなマインドで入社してきたのだから、声をかけたとき、上司というか編集長がパソコンを打つ手を止め、部下の話をきちんと聞くこと自体、かなりの衝撃。しかも、体をきちんとこちらに向けてくる。働いてきた環境で「普通」と思うことも、ある人には「衝撃」だったりするのだ。
人の心は単純だ。心を打つ人の言葉は身に染み入るが、そうでない人の言葉は右から左。
(「編集」「編集」とばかり口にしていたときに)
「ゴリ、コンテンツをつくって終わりじゃないよ。私たちはサービスを提供しているの。『編集業』じゃなくて、『サービス業』なの」
(あるプロジェクトが頓挫しかけたときに)
「ゴリ、あなたが1人でやりなさい」
(空気を読んでいないときに、しばしば)
「ゴリ、出世する人は気遣いのできる人だよ」
あるときはメンバーのミスを一身に受け、小さい体を折りたたみ、頭が膝につかんばかりの謝罪。渋谷セルリアンタワーのラウンジカフェでの忘れられない一コマ。
当時のインターネットコンテンツは有象無象で真偽もわからなければ、そもそも誰が書いたのかもわからないものが多く、さゆりさんは、そこに編集長として「質」と「編集」という概念を掲げて「信頼できるネットコンテンツ」の実現に邁進。私はそのそばでただただ「これなら読者に伝わる」「これは信頼たるべき情報だ」と考えながら、ガイドと二人三脚でコンテンツをつくっていた。
(ちょっと話はさかのぼり)オールアバウトに転職し、驚いたことは多々あったが(短パン&ハーフパンツで仕事をする社員がいたりとか)、なかでも衝撃を受けたことが「上司が人の話を聞く」ということだった。
それまでの出版社での業務形態は、非常に合理的かつ効率的。原則自分で外部からの電話はとらないし(電話担当が一括して受け付ける)、上司への確認物は専用ボックスに入れて処理。業務集中時間「Quiet Time」なるものもあり、話すことすら憚られる(特に上司には)。生産性向上には、あるべき姿だが、ちょっとした疑問なども話しづらく、上司の顔色を見ては気を揉みながら働いていた。
そんなマインドで入社してきたのだから、声をかけたとき、上司というか編集長がパソコンを打つ手を止め、部下の話をきちんと聞くこと自体、かなりの衝撃。しかも、体をきちんとこちらに向けてくる。働いてきた環境で「普通」と思うことも、ある人には「衝撃」だったりするのだ。
人の心は単純だ。心を打つ人の言葉は身に染み入るが、そうでない人の言葉は右から左。
(「編集」「編集」とばかり口にしていたときに)
「ゴリ、コンテンツをつくって終わりじゃないよ。私たちはサービスを提供しているの。『編集業』じゃなくて、『サービス業』なの」
(あるプロジェクトが頓挫しかけたときに)
「ゴリ、あなたが1人でやりなさい」
(空気を読んでいないときに、しばしば)
「ゴリ、出世する人は気遣いのできる人だよ」
あるときはメンバーのミスを一身に受け、小さい体を折りたたみ、頭が膝につかんばかりの謝罪。渋谷セルリアンタワーのラウンジカフェでの忘れられない一コマ。
はっぴを着た女性がAll About 初代編集長・森川さゆりさん。若かりし江幡さんの後ろでくす玉を持っているのが当時のわたし |
■「自分のことしか考えてないよね」
「ゴリ、この目標はメンバーにとって納得感はあるの?」
それは同時に「ゴリは自分のことしか考えていないよね」という裏返しであり、本当はどこかで気づきながらも、スルーしていた心底を見事に打ち抜く一言でもあった。だから、沈黙のち逡巡。目標達成は重要だけれど、相手はそのゴールに納得しているのか。従前、伝えたことが腑に落ちる、そんなコミュニケーションをとっていたのか――。
何より、信頼する人からの言葉だったからこそ、重く響いた。
この言葉は不思議と今でも心に残り、それこそ十数年、何百回、何千回と実際に口にし、心のなかで反芻している。
―――さゆりさんは、その後退社、独立し、いまではオールアバウトガイドとしても活動されている。
ガイド業務の一環として、オールアバウトのオフィスに来ることがあり、「ゴリー」とどこからともなく声をかけられると条件反射で立ち上がり、今でも「納得感」という言葉が頭をよぎり、傾く西日を思い出す。
それは同時に「ゴリは自分のことしか考えていないよね」という裏返しであり、本当はどこかで気づきながらも、スルーしていた心底を見事に打ち抜く一言でもあった。だから、沈黙のち逡巡。目標達成は重要だけれど、相手はそのゴールに納得しているのか。従前、伝えたことが腑に落ちる、そんなコミュニケーションをとっていたのか――。
何より、信頼する人からの言葉だったからこそ、重く響いた。
この言葉は不思議と今でも心に残り、それこそ十数年、何百回、何千回と実際に口にし、心のなかで反芻している。
―――さゆりさんは、その後退社、独立し、いまではオールアバウトガイドとしても活動されている。
ガイド業務の一環として、オールアバウトのオフィスに来ることがあり、「ゴリー」とどこからともなく声をかけられると条件反射で立ち上がり、今でも「納得感」という言葉が頭をよぎり、傾く西日を思い出す。
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