相手が真に求めている“本質”を見抜く
社員が大切にしている言葉を紹介する連載企画「Quotes」。第31回に登場していただくのは、プラットフォーム開発部 鹿島さん。学生の頃就職活動先で出会ったことばが今回のQuotesです。
■何も響かなかった最初の出会い
この言葉と出会ったのは、まだ社会の右も左も分からない就活生時代でした。手当たり次第にインターンや採用面接を受けては、付け焼き刃のビジネス知識を摂取していたのを覚えています。その中の一つの会社で(失礼なことに一体どこの会社だったかすら覚えてないのですが)、この言葉を紹介していただきました。
If I had asked people what they wanted, they would have said faster horses. (もし人々に望むものを聞いたら、彼らはより速い馬がほしいと答えただろう)
世界で初めて自動車の大量生産を実現したフォード社の創設者ヘンリー・フォードが残したとされる言葉です。「速い馬がほしい」 と言う顧客には「速く移動したい」 というインサイトがあるのであって、顧客の表層的な要求を鵜呑みにしては重要な価値は作れない。本当に価値があるのは、当時発明こそされていたものの庶民に手の届くものではなかった自動車を安価に生産することだった。そんな意味で語り継がれる言葉です。
当時は「なるほどたしかに~。」 くらいの感想で、実体験とはなんら結びつかず、空虚な学びだったなと思います。
当時は「なるほどたしかに~。」 くらいの感想で、実体験とはなんら結びつかず、空虚な学びだったなと思います。
■突然の再会
それから4年ほど経った頃、部署転換もありWebサービスのプロダクト開発の仕事をさせていただくこととなり、自分にとっても大きな転機を迎えました。この頃は仕事内容が大きく変わったことで、全く新しい業務に悪戦苦闘しながら、同時にキャッチアップのために自主的にいろいろと勉強をするようにもなりました。さまざまな本を読んだり、記事を読んだり、動画を観たり、業界人をフォローしたり、授業を受けたり……。
そしてある日行き着いた本に、さきほどの一節が引用されているのを発見し、久々の再会を果たしたのでした。読んだ瞬間、それまでの業務の体験と結びつき、就活生時代に聞いたときとは全く違う意味合いをもって咀嚼されたのを覚えています。プロダクト開発は仕事の性質上、多くのユーザーの生のご意見・ご要望に触れる機会がありますが、それを鵜呑みにすることは必ずしも良いことではないというのはプロダクト開発の現場ではよく言われることです。ユーザーの日々の行動や習慣を変化させるプロダクトは、少なからずイノベーションであり、自動車の大量生産というイノベーションと通ずる部分があったわけです。
実際、サービスを運営していく中で「速い馬がほしい」 というユーザーの要望に対し、「車」 を提供すべきだと思っているからこそ言葉通り応えることができず苦々しい思いをすることも多々ありました。果たしてそれで良いのか。いや、良いのだろうがなんかモヤモヤする……。そんな思いに対して「それで良いのだ、むしろそうあるべきなのだ」 と正当化してもらえたような気持ちにもなりました。
それ以来、何か新しいことにチャレンジする難しい場面に遭遇すると、時々ふと思い出しては頭の中で唱える言葉となりました。
実際、サービスを運営していく中で「速い馬がほしい」 というユーザーの要望に対し、「車」 を提供すべきだと思っているからこそ言葉通り応えることができず苦々しい思いをすることも多々ありました。果たしてそれで良いのか。いや、良いのだろうがなんかモヤモヤする……。そんな思いに対して「それで良いのだ、むしろそうあるべきなのだ」 と正当化してもらえたような気持ちにもなりました。
それ以来、何か新しいことにチャレンジする難しい場面に遭遇すると、時々ふと思い出しては頭の中で唱える言葉となりました。
■自戒として
一方で、頭の中で唱える必要があるということは、まだ完全に定着できていないということでもあります。僕自身、人の要望に対して言葉通りに答えたくなってしまう悪い癖があるので、この言葉は僕にとって重要な自戒の一つでもあるのです。
思えばこれまでの仕事の仕方を振り返っても、「速い馬」 の提供に躍起になることばかりだったなと思います。でも、本当は「車」 を提案していても良かったはず。そんな大げさなものでなくても、期待をいい意味で裏切り、要望されていないものを提供し、結果期待を上回ることの価値は大きいはずです。人の要望を杓子定規に聞いてしまうたび、この言葉がたしなめてくれているような気がします。「そんな仕事のやり方じゃ、社会を動かす大きな価値は作れないぞ」 と。
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