本当に大事な“仕事”を見失いそうなときに思い出す言葉

ああ、ようやくおなかいっぱいごはん食べてさ、好きなように寝返りうってさ、もう苦しくないから久しぶりに仰向け寝してさ、ぐっすり眠るんだ！ と、出産直後の私は、長らく続いた24時間バリウム中みたいな状態からの解放感にひたすら浮かれていた。それなのに。

その日の真夜中、泣き止まない新生児をとりあえず抱っこすると、なんだかちょっと泣けてきた。悲願のぐっすり睡眠タイムを奪われたんだという幼稚な理由に加えて、自分の意思ひとつでだいたい片づく日常を失ったこと、妊婦になってから認識するようになった性的役割分担というやつに巻き込まれていく感じがとにかく嫌だった。

退院すると母親は、ほぼ例外なく「〇〇ちゃんママ」と呼ばれる。初めは何事も新鮮で、子育てもだいたい楽しい（※心から）ものだけど、どこに行っても何をしてても「ママ」括りだし、いつからか実母にまで「ママ」と呼ばれて、「お母さんのママじゃないんだけど！」などとやりあったり、「ママなんだから」という枕詞とともにアドバイスや苦言が届く日々にげんなり。続くワンオペに消耗して、たしか趣味だったはずの料理についても、いつからか「作業」と表現している自分にハッとしたりもした。

そうやって数年がかりで溜め込んだモヤモヤの塊みたいなものから解放される瞬間は、（元「家電」ガイドの）故・戸井田園子さんとの打ち合わせ中に突然やってきた。

というもの。

戸井田さんによれば、家事は大きく2つに分類することができて、1つは掃除や洗濯、食器洗いなど汚れを“元の状態に戻す”「リセット家事」で、これは誰がやってもめざすゴールに大きな差がでないタイプの家事。もう1つが、料理や子育て、裁縫など“自分らしさ”や“家族の個性”で仕上がりが変わる「プラス家事」。

リセット家事を思い切って家電に任せてしまえば、自然と自分や家族に“ゆとり”が生まれて、結果的に、一番大切（なのに後回しになりがち）なプラス家事に時間をかけることができるのだ、と。

「そっか！」

すぐさま私は、深い意味もなく徹底していた「食洗器は1日1回」ルールと「汁椀は漆器でないと」ルールを手放して平日は食洗器OKの食器のみで運用してみた。驚くほどラクになった。私がモヤモヤを抱えながら守り続けた“こだわり”も、家族にとっては「ふぅん、そうだっけ？」程度のものでしかなかったのも発見だった。

手放したところで実は誰も困らない「自分がやるべき仕事」は、まだまだいっぱいあるのかもしれない。

以来、私はまず最初に考えてみる。それって本当に必要だっけ？と。