プロフェッショナルが学ぶべき、“契約の本質”
社員が大切にしている言葉を紹介する連載企画「Quotes」。第54回は、経営管理部 法務グループ 若松さん。ビジネスにおける契約の本質を教えてくれた、アメリカのロックバンドの逸話を紹介します。
“There will be no brown M&M’s in the backstage area, upon pain of forfeiture of the show, with full compensation.”
(訳:バックステージエリアおよびその周辺に、茶色のM&M’sチョコレートを一切置いてはならない。違反した場合、ショーの契約は補償付きで破棄されるものとする。)
80年代のアメリカのヘアー・ロックバンド、ヴァン・ヘイレンは、契約書の第126条にこの一文を含めたことで悪名高い存在でした。「バックステージエリアにM&M’sを一皿用意すること、ただし、茶色いM&M’sを置いてはならない。これに違反した場合、ショーは中止とし、全額の補償金を支払うこと」
長年にわたり、この条項はロックンロール・ライフスタイルの軽薄で自己中心的な表れと見なされていたそうです。しかし、この一文に込められた真意を知ったとき、私は一人のビジネスパーソンとして、深く感銘を受けました。
長年にわたり、この条項はロックンロール・ライフスタイルの軽薄で自己中心的な表れと見なされていたそうです。しかし、この一文に込められた真意を知ったとき、私は一人のビジネスパーソンとして、深く感銘を受けました。
■「M&M’sテスト」に隠された真意
初代フロントマンのデイヴィッド・リー・ロスは、その著書『クレイジー・フロム・ザ・ヒート』の中で、この要求が実は手早い安全確認の方法だったと説明しています。
リー・ロスはこう記しています。
「ヴァン・ヘイレンは、大規模なプロダクションを地方市場へ持ち込んだ最初のバンドでした。(中略)そして、技術的な問題が何度も、何度も起きました。例えば、梁が機材の重量に耐えられないとか、床が沈むとか、機材を運び入れるにはドアが小さすぎるとか、そういったことです。契約の付帯条項は、あまりに機材が多く、それを動かす人間の数も膨大だったため、まるで中国語版の電話帳のようでした。付帯条項の技術的な部分を見ると、『第148条:15アンペアの電圧ソケットを、19アンペアの電流を供給可能な状態で、20フィート間隔で均等に設置すること……』といった具合です。そして、全く関係のない箇所のど真ん中に、第126条がありました。『バックステージエリアに茶色いM&M’sを置いてはならない。これに違反した場合、ショーは中止とし、全額の補償金を支払うこと』。
だから私はバックステージに行って、もしそのボウルに茶色いM&M’sを見つけたら……よし、プロダクション全体を総点検だ、となるわけです。技術的なエラーが必ず見つかります。連中は契約書を読んでいないんです。問題が起きることは保証付き。時にはショー全体を台無しにしかねないほどの、文字通り、命に関わるような問題が。」
茶色のM&M’sを取り除くという、一手間かかるけれど実害のないリクエストすら実行できない相手が、人命に関わる複雑で重要な設営要件を完璧に満たせるでしょうか? 彼らはこの条項を、契約相手の注意深さや契約を履行する能力を測る、極めて巧妙なリトマス試験紙として活用していたのです。
リー・ロスはこう記しています。
「ヴァン・ヘイレンは、大規模なプロダクションを地方市場へ持ち込んだ最初のバンドでした。(中略)そして、技術的な問題が何度も、何度も起きました。例えば、梁が機材の重量に耐えられないとか、床が沈むとか、機材を運び入れるにはドアが小さすぎるとか、そういったことです。契約の付帯条項は、あまりに機材が多く、それを動かす人間の数も膨大だったため、まるで中国語版の電話帳のようでした。付帯条項の技術的な部分を見ると、『第148条:15アンペアの電圧ソケットを、19アンペアの電流を供給可能な状態で、20フィート間隔で均等に設置すること……』といった具合です。そして、全く関係のない箇所のど真ん中に、第126条がありました。『バックステージエリアに茶色いM&M’sを置いてはならない。これに違反した場合、ショーは中止とし、全額の補償金を支払うこと』。
だから私はバックステージに行って、もしそのボウルに茶色いM&M’sを見つけたら……よし、プロダクション全体を総点検だ、となるわけです。技術的なエラーが必ず見つかります。連中は契約書を読んでいないんです。問題が起きることは保証付き。時にはショー全体を台無しにしかねないほどの、文字通り、命に関わるような問題が。」
茶色のM&M’sを取り除くという、一手間かかるけれど実害のないリクエストすら実行できない相手が、人命に関わる複雑で重要な設営要件を完璧に満たせるでしょうか? 彼らはこの条項を、契約相手の注意深さや契約を履行する能力を測る、極めて巧妙なリトマス試験紙として活用していたのです。
■ビジネスにおける茶色のM&M’s
ヴァン・ヘイレンが自分たちの命とライヴの成功を「自分事」として捉え、契約書を武器として活用したように、私たちにとっての契約書もまた、決して他人事ではありません。
契約書に書かれている納期、仕様、品質基準、そして万が一トラブルが起きた際の責任の所在……。その一つひとつが、私たちのビジネスの成功、お客様との信頼関係、そして会社の未来に直結します。一見些細に見える条文の見落としが、後々大きな問題に発展する可能性は、決してゼロではありません。
「茶色のM&M’s」は、私たちのビジネスにおける「見過ごされがちな細部」の象徴と言えるかもしれません。そして、その細部にまで魂を宿らせることができるかどうかが、プロフェッショナルとしての真価を分けるのではないでしょうか。
契約書に書かれている納期、仕様、品質基準、そして万が一トラブルが起きた際の責任の所在……。その一つひとつが、私たちのビジネスの成功、お客様との信頼関係、そして会社の未来に直結します。一見些細に見える条文の見落としが、後々大きな問題に発展する可能性は、決してゼロではありません。
「茶色のM&M’s」は、私たちのビジネスにおける「見過ごされがちな細部」の象徴と言えるかもしれません。そして、その細部にまで魂を宿らせることができるかどうかが、プロフェッショナルとしての真価を分けるのではないでしょうか。
■ビジネスにおける契約
ヴァン・ヘイレンの逸話は、契約書とは単なる形式的な書類ではなく、当事者間の極めて重要な約束事であり、互いの信頼関係を担保するためのコミュニケーションツールである、という本質を私に教えてくれました。
契約を「自分事」として捉え、その内容を深く理解しようと努める。その意識こそが、予期せぬトラブルから私たちを守り、ビジネスを成功へと導く盤石な土台となるはずです。
次に契約書を手にする機会があったら、ぜひこの「茶色のM&M’s」の話を思い出してみていただければと思います。
契約を「自分事」として捉え、その内容を深く理解しようと努める。その意識こそが、予期せぬトラブルから私たちを守り、ビジネスを成功へと導く盤石な土台となるはずです。
次に契約書を手にする機会があったら、ぜひこの「茶色のM&M’s」の話を思い出してみていただければと思います。

9 件
Back Number
Rankingランキング
- MONTH
- WEEK